坂本鉄男 イタリア便り 落書きの重いツケ

11月中旬、ロシア人観光客がローマの思い出にと、古代遺跡コロッセオの壁のれんがに、地面に落ちていた石を使って自分の名前の頭文字「K」を彫った。たまたま巡回中の警官に「文化財損傷」の現行犯で逮捕され、即決裁判で「禁錮4カ月、罰金2万ユーロ(約300万円)」の判決が言い渡された。

このロシア人は団体旅行の途中だったので、次の訪問地ナポリに向かうグループに合流できるようにと、罰金を来年1月までに支払う条件で禁錮刑は保留となった。

ここで思い出すのは、2008年に日本の短大生がフィレンツェにある大聖堂の壁に、自分たちの名前と大学名を落書きしたのが発覚し、大学の責任者と学生が謝罪に同市を訪れた事件である。

イタリアは町の至る所の壁、商店のシャッター、電車やバスの車体まで落書きだらけである。ロシア人が名前を彫った古代のれんがにも、短大生が落書きした壁にも、他に落書きがあるに違いない。

観光客にすれば、つい「私も」と思ってしまうのだろうが、ご用心。高いツケが回ってくることもある。

今年も年末年始の休みに多くの方が外国を訪問することだろう。誘惑には決して負けませんように。

坂本鉄男

(2014年11月30日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)