ソンドリオ県後援 イタリア食文化セミナーご報告

3月4日(水)13:00~17:00、北イタリアから来日中の食文化の専門家を講師にお迎えして、40名弱のご参加をいただき、食文化セミナーを開催いたしました。

DSC01412この日のセミナーは2部構成。第1部は、「北イタリア・ロンバルディア州からピエモンテ州へ-食と景観の世界遺産をめぐって」というテーマで、まずは、ロンバルディア州ソンドリオ県観光局のステファーニャ・ストッパーニさんから、ロンバルディア州北部ソンドリオ県のヴァルテッリーナ地方についてお話を伺いました。

ヴァルテッリーナは、スイスとの国境、アルプス山脈中心部に位置する広大な渓谷地帯で、アルプスの雄大な山々や氷河の景観を楽しむ列車として知られる、世界遺産・ベルニナ急行の出発地でもあります。終点のスイスのサンモリッツまで、高低差が約1800mという起伏あるルートをかけ抜けるこの登山電車は、箱根登山電車とも姉妹関係を結んでいるそうです。山岳リゾートでもあるこの地方では、夏はトレッキングやハイキング、冬にはスキーが楽しめます。

また、その食文化もとても魅力的です。険しい山肌の急斜面に張り付くように延々と続く、段々畑のブドウ園の光景が特徴的なこの地方はワインの生産が盛んですが、その土地は、平地が少なく痩せています。そのため小麦に代わってライ麦や日本人にも馴染みの深い蕎麦が栽培され、蕎麦粉の手打ちパスタ「ピッツォッケリ」や、チーズを蕎麦粉の衣で揚げたストリートフード「シャット」、ライ麦のドルチェなどが代表的な郷土料理となっています。また、谷あいでは酪農がおこなわれ、「ビット」や「カゼーラ」といったチーズが有名です。赤身の牛肉を塩漬けにした生ハムの一種「ブレザオラ」はヴァルテッリーナが発祥の地だそうですが、脂分がないことからアスリートにも好んで食べられているそうです。

ステファーニャさんのお話の後は、ピエモンテのバローロ同様、ネッビオーロ種100%を使用した赤ワイン「ヴァルテッリーナ・スペリオーレ“インフェルノ”」と共に、洋梨の砂糖煮が添えられた「カゼーラ」チーズを楽しみました。

DSC01433次に、スローフード運動発祥の地として知られるピエモンテ州トリノを拠点にイタリア料理を学ぶ人のための研修を行っているICT(イー・チー・ティ)代表のダニエラ・パトリアルカさんの登場です。

ピエモンテ州は、「ピエモンテ=山の麓」という名前どおり、アルプス山脈の麓に位置する州ですが、丘陵地帯、そしてパダーノ平野へと続く変化に富んだ地形をしています。豊穣な土地からはたくさんの魅力的な食材が生まれ、ピエモンテはいわば農民たちによって守られてきた土地でもあります。

その代表がバローロやバルバレスコに代表されるワイン。今やピエモンテは世界に名だたるワインの一大産地となりましたが、近代になるまでその品質はあまり評価されていませんでした。ピエモンテの長いワイン生産の歴史の中で、画期的な役割を果たしたのが統一イタリア王国初代首相、ピエモンテ出身のカミッロ・ベンソ・カヴール伯爵です。自らワインの改良に乗り出し、フランスからワイン学者を招いてピエモンテのワイン醸造の近代化の礎を築きました。

その拠点となったのが、伯爵の居城でもあったグリンザーネ城で、現在もこの地方のワイン文化を知るための施設として利用されています。この城の他にも、この地方には16世紀頃に立てられた城がたくさん残っています。この美しいブドウ畑の景観が魅力的なピエモンテ州南部のランゲ・ロエロ・モンフェッラート丘陵地帯は、「人間と大地が特別に深く結びついた土地」として、イタリアで50番目の世界遺産に登録されています。

また、この地方の特徴として、一般家庭でも岩場に掘られた洞窟がカンティーナ(ワイン貯蔵庫)として使われています。集落は丘の上に作られ、「カッシーナ」と呼ばれる数世帯が一緒に生活できるアパートのような家々が特徴的です。

ランゲ丘陵地帯は、イタリアを代表する作家のひとりであるチェーザレ・パヴェーゼの出身地でもあります。彼の作品の中では、この丘陵地帯の美しさが頻繁に描かれていますが、セミナーの中では、パヴェーゼの小説のフレーズに丘陵地帯の風景をマッチさせた美しい映像も見せていただきました。

お話の後は、本日2度目の試飲・試食タイムです。ピエモンテ州から届いた特産品は、アルネイス種という古くからの土着品種から作られる白ワイン「ロエロ・アルネイス」とネッビオーロ種100%の赤ワイン「アルブニャーノ・スーペリオーレ」、そして前述の洋梨の砂糖煮にマスタード・エッセンスを加えた「モスタルダ」を添えた「ラスケラ」チーズ。このころにはほんのりと顔を薔薇色に染めた参加者の姿もちらほら見受けられました。

DSC014172回の試飲・試食タイムでは、ダニエラさんといっしょにICTで活動されていてAIS(イタリア ソムリエ協会)公認ソムリエであり、AIS認定講師として、各地でワイン、加工肉、チーズなどの講習を行っていらっしゃるコスタンティーノ・トモポウロスさんから、産地や製造法、ワインと食べ物との組み合わせなど、ワインやチーズにまつわる興味深いお話を伺うことが出来ました。

第2部は、「イタリア式シェフの育て方」と題し、イタリア食文化研究家の長本和子先生にお話しいただきました。長本先生には、第一部の通訳もご担当いただきましたが、その食文化の知識に裏付けされたわかりやすく丁寧な通訳のおかげで参加者の理解も一層深まりました。

nagamoto5第2部では、イタリア料理とはいったい何なのか、という普遍的なテーマから始まりました。イタリア料理は、そもそも「クチーナ・ポーヴェラ(庶民の料理)」が礎となっており、フランス料理の源流となっている、ルネッサンス時代にカテリーナ・ド・メディチがイタリアからフランスへ持ち込んだ料理は、あくまでも「クチーナ・リッコ(貴族の料理)」である、としてイタリア料理とフランス料理の明確な違いを説明。いくつものコンロと鍋を駆使して仕上げるフランス料理に対し、家庭料理が元となっているイタリア料理は鍋一つで完成させられるのです。家庭で作られる料理だからこそ、その郷土に根付いた季節ごとの伝統料理が連綿と受け継がれています。

長本先生は長きにわたり、日本人のイタリア料理人育成に携わっていらっしゃいます。料理人育成に重要なのは、料理をとりまく文化的背景や、食材が厨房に運ばれるまでの過程を実際に目にし、理解し、経験することだとして、現地で多面的な実習を行い、その愛弟子たちは全国各地で活躍されています。セミナーでは、長本先生の人間味あふれる語りからイタリア料理の奥深さを再発見することが出来ました。

今年5月からは、いよいよミラノ万博が開催されます。この日紹介された北イタリアの地方は、ミラノからのアクセスも良く、鉄道を使って気軽に訪れることができます。ぜひ足を運んで、ご自身の目と舌で、食、自然、文化が融合したこれらの地方の魅力をお確かめください!

最後になりましたが、ご参加くださったみなさま、遥々イタリアからお越しいただいた3人の講師のみなさま、長本先生、そして試食品をご提供いただきました株式会社アーク様(チーズご提供)、郵船商事様(ピエモンテ産ワインご提供)、モンテ物産様(ヴァルテッリーナ産ワイン)にあらためて感謝申し上げます。ありがとうございました。

| カテゴリー : レポート | 投稿者 : adminaigtokyo