坂本鉄男 イタリア便り 地中海に難民の波

 奈良時代の大秀才、阿倍仲麻呂(698~770)は遣唐使として中国に渡り、唐の宮廷でも頭角を現し高官に任じられた。唐での暮らしが35年以上になった彼は帰国を志したが、東シナ海の荒海に阻まれて祖国の地を踏めなかった。

 鎌倉時代の13世紀後半、モンゴル帝国が2度にわたり大艦隊を派遣して北九州を攻撃したが、通説によると「神風」(大暴風)により撃退されたとされる。

 つまり、いい意味でも悪い意味でも日本は渡航の難しい荒海に囲まれているのである。

 これに対し、比較的穏やかな地中海に長靴形に突き出したイタリアは、紀元前から沿岸諸国との交流が盛んであった。

 最近では、政情不安なアフリカおよび中東から多数の難民が悪徳業者の船に乗り、ヨーロッパを夢見て地中海を越え、イタリアに押し寄せている。4月18日には約950人を満載した漁船が転覆して約700人が命を落とした。

 それでも難民は引きも切らずやってくる。4月中旬にはわずか5日の間に1万人が殺到した。当然、イタリア政府だけでは対処できず、EU諸国に援助を求めている。

 日本のように荒海に囲まれていれば、状況は違ったかもしれない。

坂本鉄男

(2015年4月26日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)