坂本鉄男 イタリア便り 宝の持ち腐れ

 2カ月以上前のことだが、法王庁の報道官ロンバルディ神父が、ミケランジェロ(1475~1564年)の自筆書簡2通がバチカン市国の古文書館から紛失していることを認めた。紛失がわかったのは18年前の1997年で、その後、泥棒との仲介役が「約20万ユーロ(約2560万円)で取り返せる」と申し出たが、当時の館長が「盗まれたものを買うことはできない」と拒否したらしい。

 厳しい管理下におかれている古文書館から書簡を盗み出すのは、内部事情に精通していなければ不可能だ。盗まれた書簡のうち、1通は全て自筆で、もう1通はサインだけが自筆であるという。

 泥棒側から提示された書簡の値段20万ユーロが高いか安いかの問題だが、専門家は「書簡の内容やミケランジェロが書いた時期、あて先人などにより価値は大きく変わる」という。書簡の内容など詳しいことは公表されていないが、市場に出たら20万ユーロをはるかに上回ることは確かである。

 それにしても、このように貴重な書簡の紛失が18年間もの長い間公表されなかったとは驚きである。

 見方を変えれば、バチカンの古文書館がいかに多くの貴重な文書を所蔵し、責任を取るのが嫌な人たちに管理されているかが明るみに出たともいえよう。

坂本鉄男

(2015年4月19日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)