坂本鉄男 イタリア便り 親と通学、当たり前

日本では新学年が始まった。子供が小学校高学年になっても親が通学に付き添うというと、一般とは違うような家庭を想像する人は多いだろうが、イタリアではごく普通のことである。

わが家の近くの修道院経営の学校の前は毎朝付き添いの親の車で混雑する。あるとき、修道女に「日本では子供を1人で通学させるのが普通ですよ」と言ったら、大きく両手を開いて叫ばんばかりにこう答えた。

「日本は治安も交通状態もいいからですよ。万一、子供が途中で事故にあったり誘拐されたりしたら、誰が責任を取るのです。私たちは親にできるだけ登下校は付き添うよう言ってあるのです。でも最近は共働きの親が増え、1人で通学する子供が多くなりました」

昨年の統計によると、イタリアの小中学生の41%は1人で徒歩通学をするようになった。まさに修道女の言葉を裏付けている。英国の小中学生の7%と比べると大差がある。

親だって通学の付き添いから解放されればどんなに楽か分からない。だが、これは昔からの習慣である。

130年ほど前の子供向け古典、エドモンド・デ・アミーチスの「クオレ」(邦題「クオレ 愛の学校」)の通学場面でも母親ばかりか、将校の父親までもが通学に付き添っていたのだから。

坂本鉄男

(2015年4月12日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)