坂本鉄男 イタリア便り 盗聴費用2億ユーロ

 日本のことわざ「壁に耳あり障子に目あり」を現代イタリア流に解釈すると、「電話は携帯電話を含めて盗聴されていると思え」というところだろうか。

 イタリア紙を毎日のようににぎわしているのは、マフィアなどの犯罪事件と公共事業関連の汚職事件である。こうした事件のほとんどが捜査当局による電話盗聴によって暴かれている。

 イタリアでは、捜査目的で検察官が判事の許可を得た場合、盗聴が可能だとされている。大物政治家も逃れられない。例えば未成年者買春の罪に問われて最近、無罪判決が確定したベルルスコーニ元首相への捜査でも、関係者への盗聴は多いときは1日計600回におよび、盗聴費用も総計150万ユーロ(約2億円)以上かかったという。

 元首相の個人的な性癖に関する事件でさえ、これだけの規模になるのだから、マフィア組織の捜査や高速道路、大規模ダム工事などの収賄事件となると、当然ながら盗聴は長期にわたり膨大な費用を要する。

 2011年の盗聴費用は2億2600万ユーロに上ったというが、設備費や専従捜査官の給料などの経費は含まれていない。とはいえ、マフィアの根絶や、入札工事の3分の1に贈収賄が関わるという悪癖を根絶するためなら、安いというべきか。

坂本鉄男

(2015年5月24日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)