坂本鉄男 イタリア便り 誇り傷つけぬ施し

 人に施しを与えることは、時として相手の尊厳を傷つけることがある。また、施しを受ける側も施しに甘えたり慣れたりしてしまったら自己の誇りを失い人間失格にもつながる。

 長友佑都選手の所属するイタリアサッカーリーグ・セリエAのチーム「インテル・ミラノ」で1984年から10年間オーナーを務めたエルネスト・ペッレグリーニ氏(76)は、経済ブーム時代から企業の食堂業務受託などで巨万の富を築いた。慈善活動家でもあり、ミラノで毎晩500人の困窮者に食事を提供するレストランを運営する。

 困窮者に提供する食事といっても、パンとデザートはもちろんのこと1皿目はパスタやリゾットなど2種類から選べるし、2皿目も肉や魚など3種類から選べるちゃんとした食事だ。

 貧しい人なら誰でも入れるわけではない。教会や慈善団体などの推薦に基づき、理由の確かな失業者や困窮者だけが2カ月間有効の入場パスをもらえる。

 この食堂の特徴は、困った人のためのレストランとはいえ、タダではなく、必ず1ユーロ(約135円)払わなければならない点だ。

 これは、「自分は現在は困っているが恵んでもらっているのではなく、お金を払って食事をしているのだ」という自尊心を持たせるためだという。もっともなことだ。

坂本鉄男

(2015年5月17日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)