坂本鉄男 イタリア便り 「フィガロの結婚」今昔

モーツァルトのオペラ「フィガロの結婚」の背景にあるのは領主の「初夜権」だ。

昔の封建領主の中には領民の娘が結婚するにあたり、「初夜権」を行使する者がいたという。だが、これは昔の話。たとえ法的に夫であったとしても、同じようなことをやれば当然ながら刑法で罰せられる恐れがある。

イタリアでこんな裁判があった。2010年の春に結婚したローマ在住の夫婦が、初夜に妻が体調不良を理由に嫌がったにもかかわらず、夫が力ずくで思いを遂げ、妻がその後の結婚生活に嫌気がさし、夫を暴力行為で訴えたのである。

1審判決は夫を1年8カ月の禁錮刑とし、2審も1審の判決を支持し、これを不服とする夫が最高裁に上告した。

最高裁判所は昨秋、次のような判決を下した。「結婚生活が互いに満足を果たす義務の上に立つのは当然だが、刑法第609条は相手の自決権の自由を、いかなる形でも、それが夫婦間の性行為であれ損なうことを禁じている」として、夫の上告を棄却したのだ。

ちなみに、「フィガロの結婚」では、領主がこの封建的特権を放棄することを村人に宣言することでハッピーエンドに終わっている。

坂本鉄男

(2016年2月28日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)