連続文化セミナー 『イタリアの祝祭』スタート

イタリアの都市の聖堂、宮殿、劇場そして広場などを舞台に繰り広げられる祝祭に出会った時、その都市は一層輝いて見える。

なぜ都市はそして人びとは祝祭を求めるのだろうか。

この連続セミナーでは、ヴェネツィア、フィレンツェ、ミラノ、ローマなどの都市で繰り広げられるさまざまなかたちの「祝祭」を通して都市の魅力を再発見し、祝祭によせる人びとの心の動きに触れることを目指す。

第1回 ヴェネツィアの都市空間における祝祭とその意味(ご報告)

シリーズ第1回は、3月2日(水)に、法政大学の陣内秀信先生に、祝祭都市ヴェネツィアを例に取り上げて、都市空間における祝祭の意味について総論としてお話をしていただいた(35名参加)。

2016-03-02-02都市史における< 祝祭>研究は意外に新しく、1980年前後から始まった。これは日本でも渋谷や原宿の街づくりに見られるポストモダンの動きにも対応している。都市の「劇場性」に注目し、迷宮都市、ヒューマンスケール都市、五感都市として、近代都市が否定したものが豊かに存続している姿を再発見する。ラグーナの水上に独特の都市空間を形成したヴェネツィアは、“citta unica”であり、元々祝祭性、演劇性を持つ都市である。その空間を活用し、サン・マルコ広場や地区の広場(カンポ)や小路や橋の上で、また大運河やラグーナの水上で、さらには宮殿や劇場や教会で様々な祝祭が催された。

まず、「祝祭の社会的性格」について。都市的な祭りの例として、カンポ・サン・ジェレミアにおける雄牛狩りのspettacolo(見世物)を挙げる。次にカーニバルにおける仮面の意味を考察する。精霊や死のイメージを伴うものも。個人を隠し、自由になる、すなわち日常秩序の反転を意味する。国家的儀式としての祝祭の例として、聖体節のサン・マルコ広場でのプロセッション(行列)。総統の私的チャペルたるサン・マルコ寺院で行われるがゆえに国家的儀式としての意味を持つ。国際政治のバランスの中で生きる必要上欠くことのできない、外交戦略としての祝祭の例として、外国からの賓客を迎えるための儀式、祝宴でのおもてなし。あこがれの地を演出する。それ自体がヴェネツィアの華やかな文化を形づくり、同時にコミュニティや国家のまとまり、統合を生む力ともなった。

次に「都市空間の中のパフォーマンス」として最も重要なものは、『海との結婚』である。また橋の持つ象徴性を示す例は多く、サルーテ教会の祭りの仮設の橋やイル・レデントーレ教会への仮設の参道、また「拳固の橋」での格闘のイベントはその後レガッタの競争にとってかわられた。カナル・グランデもレガッタ競争の舞台となり、また模擬海戦なども行われたし、マッキナと呼ばれる豪華に装飾された仮設の建物を浮かべたりしている。劇場としてのサン・マルコ広場で繰り広げられたイベントは数限りなく、多くの景観図として伝えられている。

最後に「ファンタジーの中の都市」の代表例として1979年ヴェネツィア・ビエンナーレのためにアルド・ロッシが設計した船で引かれて海に浮かべられる「世界劇場」を挙げる。一時途絶えていたカーニバルも復活し、ますますヴェネツィア独特のファンタジックな祝祭となっている。

歴史的な記録の図版や講師自らが研究対象とされ体験された祝祭の写真など見せていただいた多くの図版の1枚1枚がお話と相まって、ヴェネツィアの祝祭の賑わいを伝えてくれる素晴らしいセミナーであった。「イタリアの祝祭」シリーズは、この陣内先生の総論をスタートにして、今後、フィレンツェ、ミラノ、ローマの各都市の祝祭を巡って、最後はヴェネツィアに戻ってくる。(山田記)

 

2016-03-02-03講師紹介:■陣内 秀信(じんない ひでのぶ)

法政大学デザイン工学部教授。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。イタリア政府給費留学生としてヴェネツィア建築大学に留学、ユネスコのローマ・センターで研修。専門はイタリア建築史・都市史。地中海学会会長、都市史学会会長。著書:『東京の空間人類学』(筑摩書房)、『ヴェネツィア-水上の迷宮都市』(講談社)、『地中海世界の都市と住居』(山川出版社),『イタリア 小さなまちの底力』(講談社)、『イタリア海洋都市の精神』(講談社)、『水の都市 江戸・東京』(編著、講談社)、『イタリア都市の空間人類学』(弦書房)他。受賞歴:サントリー学芸賞、 地中海学会賞、イタリア共和国功労勲章、パルマ「水の書物」国際賞、ローマ大学名誉学士号、アマルフィ名誉市民

引き続き、4月以降は以下の日程(時間帯・会場は本セミナーに同じ)・テーマで開催いたします。

第2回 4月15日(金)都市フィレンツェの聖史劇 ―奇跡と見物― 講師:杉山 博昭(早稲田大学高等研究所助教)

第3回 5月27日(金) ミラノのデルビー ―イタリア・サッカーの醍醐味― 講師:小川 光生(フリージャーナリスト、中京大学スポーツ科学部非常勤講師)

第4回 6月22日(水) ローマ社会における「パンとサーカス」 講師:本村 凌二(東京大学名誉教授、早稲田大学国際教養学部特任教授)

第5回 7月22日(金) ヴェネツィアの祝祭 ―オペラと劇場― 講師:田島 容子(オペラ史研究者)

| カテゴリー : レポート | 投稿者 : adminaigtokyo