坂本鉄男 イタリア便り ローマの中華と和食

 昔、イタリア人は食べることに非常に保守的で、イタリア料理が世界で一番だと信じていた。だが、最近のように国外を旅行するイタリア人が激増し、同時に国外からも、さまざまな国籍の外国人が流入する時代になると、食生活も変化してきた。

 ローマには1万軒近いレストランがあるが、当然ながら圧倒的に多いのはイタリアン・レストランである。全体の6分の1が外国料理店で、値段の安さが売りものの中国料理店が最も多く、約200軒ある。だが、中華料理は「安いもの」との先入観を持つローマ市民が相手だけに高級店はなく、ややましな中華料理店も2、3軒しかない。

 2位は約40軒に増えた日本料理店である。「肉は生で 魚は焼いて」の諺(ことわざ)があるように、昔のイタリア人は刺し身やすしは苦手だったが、今はこうした偏見は少ない。

 日本人の経営者で、複数の日本人板前とすし職人がいるのは、中心部に店舗を構える「濱清」をはじめとして、数は少ない。

 独立した日本人すし職人による店も増えているが、多くは、最近の世界的な日本食ブームに便乗した中華料理店からの転向組である。

 ユネスコの無形文化遺産入りしたものの、本格的な日本料理の普及には、まだ時間がかかる。

坂本鉄男

(2016年6月5日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)