blog「Tuは何しに日本へ?(Perché sei venuto in Giappone nel 2016?)2016年版
留学生たちとの夏2016」

今年の夏もイタリアから13人の大学生が日伊協会にやってきました。彼等の目的は「日本語・日本文化講座*」受講。午前中は日本語特訓、午後は茶道、書道、華道といった伝統的な日本文化から、現在の日本のカルチャーや世界で活躍する日本企業の会社訪問まで、今の日本を体験、学習して、暑い東京の夏をより熱く過ごします。

このブログはイタリア人大学生が自分達の目で見、聞き、体験したことを自分達の言葉(日本語とイタリア語)で綴るリレーブログです。(原稿は基本的にそのまま掲載しております。固有名詞表記のみ補足)

今回はホストファミリーとして本講座を支えて下さっている神田さんに投稿いただきました。毎年、留学生との交流の中で生まれたこぼれ話満載です。

留学生たちとの夏2016

                                           神田 道子
我が家に留学生を迎えるようになって、はや5年目となりました。彼らが到着する前、毎年感じる同じ不安、食べ物などの生活習慣が合わなかったら・・・などは、すぐに払拭され、皆喜んで日本の生活を楽しんでいる姿を見てはひとまず安堵します。

今年やって来たジョルジャはボローニャ大学の3年生。今までの留学生の中で唯一『納豆』をクリアー出来た《日本食通検定試験?》の合格者です。彼女によれば、イタリアでは納豆は《世界一不味い食品》と、なんとも有り難くない栄冠に輝いたているようですが、彼女は見事にその汚名を返上してくれました。微塵切りにしたネギと醤油でよく混ぜ合わせた納豆を、炊き立てのご飯にほんの少し乗せ、恐る恐る口に運ぶ仕草のチャーミングなこと!そして「とても、おいしいいです!」と言う彼女に「ほーらね、日本ではこれを《食わず嫌い》と呼ぶのよ、これを食べないなんて、勿体ないでしょ?」
2016-08-16-01
同じ留学生仲間のグイードを誘ってカラオケに行った日のこと、彼はビートルズナンバーは全て知っていると言って、お得意の数曲を見事な英語で披露してくれました。昔プレスリーが歌って大ヒットした『イッツ ナウ オア ネヴァー』この歌の原曲は、あの『オー ソーレ ミーオ』。なぜ、イタリアの青年がイタリア語では歌わず、英語でなのか?これもEU統合の副産物? でも、イギリスは今年、離脱を選択しましたけど・・・。ジョルジャは戸惑い、しり込みしたもののマイクを握れば・・・これは世界共通の風景?

帰りに寄ったファミレスでの出来事。彼らが肉料理を注文すると、「ライスとパン、どちらになさいますか?」と店員が。すると彼らは迷わず「ご飯を」。それに対して店員は「かしこまりました、ライスですね」。彼らに「なぜ?ご飯と言わないのですか?」と聞かれ、返事に困りました。店員に尋ねると、いとも簡単明瞭な答えが「飲食店業界ではお皿に乗せたものは『ライス』と、茶碗に盛ったものは『ご飯』と呼んでいます」。なるほど、言われてみれば・・・知らなかったな、長く生きてきたのに。
2016-08-16-02
ジョルジャはアンコが大変気に入り、夕食後のドルチェタイムは決まって和菓子と緑茶。どら焼きはイタリアでも人気のアニメ「ドラえもん」の好物で、そこから名付けられたのだと話すと、嬉しそうに頬張りました。そのほか味噌や豆腐、油揚げに醤油と、なんでもOKです。唯一わさびは、来日早々すし店でいきなり口にしてまい、懲りて《苦手なものリスト》へ。魚も生魚以外は喜んで食べます。日本語では魚、人、動物、どれも皆同じ《骨》ですが、イタリア語では魚の骨は特に《とげ》という意味のspinaを使います。その他のものはオッソブーコでおなじみのossoでしたね。

≪パソコン・リモコン・マザコン≫と、日本人が当然のように、便利に使っている言葉も、イタリア人には通じないものが幾つかあります。例えばパソコンは「コンピューテルか、PC(ピ・チ)」、リモコンはtelecomandoと言わないと。マザコンはmammoneのことだと知ると、彼らはおなかを抱えて笑い転げました。日本でも最近増殖中のこのタイプ、イタリアがお家元なのは周知の通りですね。彼女と、「ねえ、相手がマンモーネだったら?」「絶対無理!」「でも、息子が生まれたら、その子をマンモーネに育てるでしょ?」「もちろん!」こんな会話で盛り上がったのは書くまでもありませんね。

2年前にスザンナたちと行った、横浜の遊園地で目にした、ジェットコースター。イタリア語ではmontagne russeと呼ぶと教わったものの、由来は不明でした。ところが最近は、スマホの登場でたちどころに解明。なんでもロシアで15世紀ごろ、凍らせた雪を磨いてその上をソリで滑ったのが始まりだとか。因みにロシアでは《アメリカの山々》と言われている、というオチもついていました。

食べ物にまつわる話は後を絶ちません。梨を剥いて出したところ、「硬い!これは梨ではありません」。イタリアの梨は日本の洋ナシのことでした。スイカはもっとオレンジ色をしていると。スイカと言えば、日本では塩をかけて食べるのは当たり前。ところがイタリアでは誰もスイカに塩などはかけないと。そこで試しにブラインドテスト実施。怪訝顔の前に2通り出し、さてどっちが美味しい?答えはもちろん、塩をかけ甘くなった方で、これも初めての体験のようです。

朝食でのジュースは、誰でも100%果汁しか飲みません。夫の実家から届いたリンゴ果汁100%が特にお気に入りで、「フジはイタリアでも有名です」と。品種名まで知っていたのには、リンゴ生産農家出の夫も驚くと同時に、とても感激していました。日本食ブームがここまで浸透しているとは。昨年のミラノ万博での日本館の活況振りも納得がいきます。3年前に我が家に滞在し、現在は日本の大学に再留学中のカルロッタも「万博の日本館は連日超満員で、12時間並んでも入れませんでした。12時間あれば、飛行機でミラーノから成田へ行けるのに・・・」と残念そうでした。

今年も鎌倉・江の島へ行ってきました。「太平洋で泳げるなんて!」 彼らにとってはこれも初体験。大波注意報が出ているにもかかわらず、大はしゃぎでした。そうか、イタリア人には太平洋は遠い東の海なのか。ヨーロッパの人からすると日本は “il paese del Sol levante” 《日出ずる国》なのだと改めて思いました。

今は何処の観光地も外国人で溢れていますが、大半はアジア系の人。ところが、欧米系らしき団体客20~30人を見かけました。「ねえ、あの人たちイタリアからでは?」とジョルジャに。すると彼女は「多分・・・」そして彼らに近づき耳を傍立てると、「いえ、違います」「どうして分かるの?」「だって、皆一言もしゃべっていないから。イタリア人があれだけ大勢居れば、もう、うるさくて、うるさくて」。確かに!彼らは全員黙々と、そして整然と歩いていたのです。

日本中がリオ・オリンピックに沸く2016年の夏、連日熱戦が繰り広げられる中、私と留学生との楽しい暮らしはさらに続きます。

2016-08-16-03
*「日本語・日本文化講座」には日本からイタリアへ文化発信する事業に助成することにより、日伊双方向の交流促進を目的として設置された日伊文化奨励基金の一部が活用されています。