坂本鉄男 イタリア便り 「海栗」食べるなら日本

俳句の春の季語にもなるほど、日本人のようにウニを好んで食べる国民はいない。昔は日本中の磯で取れたものが、今や国産は1割であとは輸入物というからびっくりする。

 ウニの漢字表記にしても、主として生のものを指す「海胆」と「海栗」の他に、日本人が酒のさかなによく口にするアルコール処理をした瓶詰の「雲丹」まで3種類もある。

 表題に「海栗」を選んだのは、イタリア語のウニの名称「リッチ・ディ・マーレ」(海のハリネズミ)とイガグリのイメージが似ており、外見上一番ふさわしいからである。

 日本では魚屋にもすし屋のケースの中にも、きれいに箱詰めにされた大きなバフンウニが並んでいるが、イタリアでは輸入物のネタを使うすし屋で時折見かけるだけで、普通はお目にかかれない。イタリアの海で取れ食用にされるのは、一種の小型ムラサキウニだけで中身は極めて少量だ。

 10年ほど前、知人がサルデーニャ島の屋台で約40個のウニを割らせ、中身だけを瓶に詰めてきてくれたが量はわずかであった。シチリア島などの海辺のレストランで時々「ウニであえたスパゲティ」に出合うこともあるがまれである。

 ウニのシーズンが来ると、つい「日本ならうまい生ウニが食べられるのに」と思ってしまう。

坂本鉄男

(2017年6月4日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)