坂本鉄男 イタリア便り クレオパトラの鼻はそんなに素晴らしい?

古代ローマのジュリアス・シーザーとアントニウスの両英雄をその美貌でとりこにした絶世の美女、クレオパトラ。紀元前30年8月に毒蛇コブラに胸を噛ませて(一説には毒薬を飲んで)黄金のベッドの上で自殺した。彼女の死は、プトレマイオス朝の古代エジプト王国の滅亡を招いた。

フランスの哲学者、パスカルの有名な表現「クレオパトラの鼻がもう少し低かったら世界の歴史は変わっただろう」(原文の意訳)とあるように、クレオパトラはエジプトの女王ではあったがギリシャ系の生まれで、鼻が高く目の大きい美しい容貌をしていたものと想像される。しかし、彼女の顔を描いたものは残存していない。

 現代人は、ハリウッド映画で名女優、エリザベス・テーラーが演じたクレオパトラの顔を想像するが、全然違っていたかもしれぬ。実際、パスカルもクレオパトラの美しさを評価したわけではなく、「顔の一部である鼻、すなわち些細(ささい)なことが、大きな影響を与える可能性がある」ということを意味したとも言われている。

 日本人は、鼻が低いことに劣等感を持つ必要はない。白人だって、鼻が高すぎるのを気にしている人もいるのだから。貴方の彼女の鼻が一番奇麗だと思っているほうが利口ですよ。

坂本鉄男&

(2017年8月6日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)