坂本鉄男 イタリア便り 大いなる遺産

 観光国イタリアの中で一番多くの観光客を集めるのは、西暦80年に完成したローマの「フラヴィウス家の円形劇場」、通称「コロッセオ」である。毎年400万人以上の観光客が訪れ、観光シーズンには平均30秒おきに観光バスが停車するといわれている。

 さて入場料だが、基本料金は9ユーロ(約1030円)だが、青少年割引・老人割引など各種の割引制度がある。とはいえ、年間400万人の入場者があれば、単純計算しても年に3600万ユーロ(約41億円)以上の大きな収入だ。

 現在は全額、文化財省の予算に組み入れられ全国の文化財保護と修理の一部に使われているが、「コロッセオ」の周辺道路の清掃・整備や治安に当たる地元のローマ市としては、この巨額の収入を指をくわえて見ているのも癪(しゃく)の種である。

 前々から、「せめて総収入の30%は市の取り分にしてもおかしくはあるまい」と掛け合ってきたが、文化財省の方では「これは純然たる国有財産だから」と相手にしない。ある試算によると「コロッセオ」の価値は910億ユーロ(約10兆4千億円)というが、購入希望者が現れるというのも非現実的な話だ。

 それにしても、イタリア国民はご先祖様から「偉大な遺産」を残していただいたものである。

坂本鉄男
(11月21日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)