坂本鉄男 イタリア便り 初代名誉総領事の死

 去る7月27日に日本の初代ナポリ名誉総領事、ミケーレ・ディ・ジャンニ弁護士が死去した。身ぐるみ剥がれた旅行者から国会議員まで、彼の世話になった日本人は数知れない。

 名誉(総)領事とは、日本の領事館のない国や都市で、トラブルに巻き込まれた邦人の世話や日本との文化交流に従事するため、その地域の名士などになってもらう、ほとんど無給に等しい名誉職だ。全世界には日本の名誉領事が約80人いるが、イタリアではナポリだけである。

 
1975年の夏、個人的に親しかった藤山楢一駐伊大使(後に駐英大使)から相談を受けた。「ナポリに名誉領事を置くことになり候補者が2人いるのだが、あ
なたに人選をお願いしたい。警察との関係、事務所と住居、経済的な豊かさなどが主な調査項目です」と。また、「あなたはナポリの大学で教鞭(きょうべん)
をとっているのだからこの人選は今後、重要ですよ」とクギを刺すのも忘れなかった。

 こうして1週間、ナポリのホテルに自腹で宿泊し、2人
の候補者を別々に夕食に招いて懇談し、彼らの自宅を訪れるなどした結果、大使に推薦したのがディ・ジャンニ弁護士だった。大使の予言通り、われわれは35
年以上、義兄弟のような関係にあっただけに、彼が死去した悲しみは身に染みる。

坂本鉄男
(8月19日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)