坂本鉄男 イタリア便り ローマ法王の執事

 1週間ほど前、本紙に「ローマ法王の元執事が秘密書類を不正入手し外部へ漏洩(ろうえい)した件でバチカンの裁判所から18カ月の禁錮刑を言い渡された」とのニュースが掲載された。では「執事」とはどんな役なのだろうか。

 「執事」とは英語の「バトラー」、つまり、「お金持ちや貴族などの館で主人たちの身辺の世話をする給仕頭」のことだ。だが、今回は「法王の身の回りの世話をする部屋付き男性召使い」を意味する。

 ローマ法王の居住区には、日常的には、掃除・食事の用意などをする4人の修道女、今回の事件の中心人物のパオロ・ガブリエレ執事、法王のドイツ人私設秘書のゲオルグ師と同師の補佐役的なマルタ人秘書がいた。この人たちは法王が早朝に個人礼拝堂で行うミサに参列してから、法王の就寝までほとんど一日生活を共にする。特に男性唯一の身辺世話係である執事は、いつでも直ちに法王の世話をすることができるようにバチカン市国内の特別区に住居を与えられ家族と一緒に住んでいた。

 彼は敬虔(けいけん)なカトリック教徒であり、法王に身をていして尽くしてきた人物だけに、今回の事件を起こした背景は謎に包まれている。また、彼に対し、近く法王から恩赦が下されるとも予想されている。

坂本鉄男
(10月14日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)