坂本鉄男 イタリア便り 贋作も手ごわい

 レオナルド・ダビンチ作とされる「若きモナリザ」の真贋(しんがん)が話題になっているが、多くの世界的美術品が生まれたイタリアだけに、おいそれとは見分けのつかぬ贋作(がんさく)の歴史も長い。

 たとえば、先ごろも2008年に国がトリノ市の古美術商から325万ユーロ(約3億3500万円)で買い上げたミケランジェロ作とされる木彫りの小さな「キリストの磔刑(たっけい)」像が話題となった。

 購入価格について会計検査院から異議が出て、当時の文化省の責任者に60万ユーロを国庫に返納すべしとの要求が出た。信憑(しんぴょう)性に疑問ありというのである。

 この像は、材料となった木材がミケランジェロが制作していた時代の1495年前後のものと測定されたほか、幾人もの著名美術評論家から若き時代の大芸術家の作品に間違いなし-というお墨付きを得て購入したものだった。

 だが、国が購入する2年前に同じ古美術商からフィレンツェの地方銀行に1500万ユーロで売却話が持ち込まれ、銀行側が鑑定を依頼した別の著名美術史家から否定的意見が出されていたことが判明したのである。

 会計検査院は、国が当初のおよそ5分の1の値段で購入したにせよ、偽物ならば莫大(ばくだい)な損失を被ったことになると主張する。専門家すら鑑別しかねる偽物も多いということだ。

坂本鉄男
(10月21日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)