坂本鉄男 イタリア便り 徴税も命がけ

 財政危機を乗り切るため昨年11月、ナポリターノ大統領から特別に指名を受けたモンティ首相は、政治家を排除し実務家だけの内閣を組織した。首相は、政治家と官僚の汚職の排除、恒常化している脱税の摘発を大きな方針に掲げている。

 イタリアの脱税は毎年1200億ユーロ(約12兆4千億円)に上ると推測されている。会計検査院の院長自身が「イタリアの脱税率が米国並みならば、現在のような国内総生産の120%以上に達する債務残高は76%に抑えられたであろうに」と嘆いているほどだ。

 経済学者のモンティ首相の厳命を受け、密輸・脱税などの摘発を担当し飛行部隊から武装艦艇も保有する準軍事組織の財務警察は、脱税の摘発に努めているが、脱税する側も防戦に懸命だ。

 北伊ベッルーノ市近郊の金属加工会社に税務調査に入った財務警察官は、会社の帳簿を隠していると思われる場所を発見した。日本なら事務所の天井裏などを連想するが、十数個並んだ蛇の飼育箱がそうだった。財務警察には麻薬捜査用の警察犬部隊はあっても「蛇部隊」は存在しない。

 結局、蛇の専門家の手を借りて書類を押収したが、今後、猛獣のおりに隠された場合はどうなるものかと頭を悩ませているという。

坂本鉄男
(10月28日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)