坂本鉄男 イタリア便り 産婦人科医のスト

 イタリア憲法はスト権を認めているが、しばしば労働者の権利が最優先され、利用者の権利は二の次になる。代表的なのが交通機関のスト。観光が国の大きな収入源であることなど関係なく、観光シーズンでもストを実施し、観光客を途方に暮れさせる。
 イタリア国民にとって困るストも多く、2月12日に予定される産婦人科医のストなどは典型的な例だ。緊急手術は除くとはいうものの、1日当たり1100件という全国での出産が危険にさらされる。今回のストの理由は、最近の医療費国庫補助の削減に対する反対と、医療措置をめぐって患者側から出される刑事告発の急増である。財政難の国庫からの補助金削減はともかく、イタリアの医療事故訴訟は過去15年間に3倍に増加している。
 特に多いのは外科に続いて産婦人科部門だが、その原因は、南部イタリアでの帝王切開出産の増加によるものともされる。99%は医者が無罪になるとはいえ、これでは産婦人科医は手術室に安心して入ることができないし、医者が保険に入るにしても年間2万ユーロ(約240万円)前後するのでは支払い切れぬというわけだ。
 それにしても労働者の権利はともかく、生まれてくる子供の権利はどうなるのだろう。
坂本鉄男
(1月27日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)