坂本鉄男 イタリア便り ユダヤ人って何?

 去る1月27日は、ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の被害者を追悼する国際デーだった。1945年のこの日、ベルリンを目指してポーランド領内を進軍していたソビエト赤軍が、偶然にも人類の歴史に汚点を残すあの悲惨なアウシュビッツ強制収容所を発見、生存ユダヤ人を解放したのである。とはいえ、いまだに欧米にはユダヤ人に対し反感を持つ者がいるから恐ろしい。
 さて、ヨーロッパ人と違い歴史上ユダヤ人とほとんど接触がなかった日本人のなかには、ユダヤ人とは「ユダヤ民族」と勘違いをしている人が多いようだ。ユダヤ人とはひと言で言うならば、「母親がユダヤ教徒であり、ユダヤ教を信じる人々」のことである。このため、数は少ないが日本国籍を有するユダヤ人もいるわけだ。
 八百万の神を持つ神道や仏教、儒教を同時に信じて何の不思議も感じなかったわれわれ日本人とは違って、約4千年間、唯一の神ヤーウェへの信仰を中心に団結してきたユダヤ教徒は、紀元70年の古代ローマによるエルサレム占領以来1948年のイスラエル建国まで世界をさまよう悲運を味わった。特にユダヤ人がイエス・キリストを死刑にしたという主張から、カトリックがヨーロッパを支配した時代の迫害は過酷なものだった。
坂本鉄男
(2月3日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)