坂本鉄男 イタリア便り 花よりチョコレート?

 昔は恋する人に恋心を秘めた花束を贈ったものである。このための「花言葉」もある。一般的なのは「愛」を表す赤いバラの花だ。バラの値段が最も高い冬に、50本の花束をささげ見事に彼女の心を射止めた友人がいた。
 また、寒い季節に見えを張り彼女の家に高価なチューリップの大きな花束を持って行ったものの、暖房が効いた応接間で見る見るうちにツボミが全開し悔し涙にくれた知人もいた。
 だが、今どき花束を贈る若者など少ないのではないか。「純愛」の花言葉もあるスミレの小さな花束を贈っても、彼女に通じないでケチと思われるだけかもしれない。
 日本人と比べて花をプレゼントする習慣が多いイタリアでも、花の売り上げが落ちている。2011年度のイタリアの花の売上総計は12億8500万ユーロ(約1600億円)と前年比5%減であった。また、最近のローマでは、昔は1週間に6万本売れたカーネーションが1万本に減り、購入者も45歳以上の男女が主だという。
 昔の日本人は偉かった。「花より団子」のことわざを作っていたのだから。あなたもあと4日に迫ったバレンタインデーには、ロマンチックな花よりもチョコレートを選ぶ方が無難でしょうね。
坂本鉄男
(2月10日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)