坂本鉄男 イタリア便り 銅線泥棒

 今年は銅の価格が1トン当たり9千ドル(約90万円)近くまで上昇するとの噂があるため、イタリアの鉄道会社と電気会社は「銅線泥棒」の増加に戦々恐々としている。
 なにしろ昨年10、11月のわずか2カ月間に、イタリア全土の鉄道で約1650件の銅線泥棒の被害が発生し、この影響で列車の運行に累計10万7千時間もの遅れが生じたのである。
 特に被害が多いのは、ローマを州都とするラツィオ州だった。被害の一例を挙げると、昨年11月19日の朝、ローマ中央駅とローマの空の玄関であるレオナルド・ダビンチ国際空港を結ぶ線で、送電用銅線4メートルが盗まれたため、午前7~9時のラッシュ時に電車が止まり、飛行機に搭乗できない人が続出した。
 ラツィオ州での期間中の被害は約200件を数え、警察に押収された銅線は約3トン、逮捕者は19人に上った。警察によると、盗んだ銅線は窃盗団専属の工場で溶かされ、大部分はルーマニア経由で需要が高い中国とインドに密輸出されるという。実際、窃盗容疑で逮捕された犯人の65%はルーマニア人だった。
 日本には、「風が吹くとおけ屋がもうかる」という諺があるが、イタリアならさしずめ、「銅の値段が上がると電車が止まる」というわけだ。
坂本鉄男
(4月14日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)