坂本鉄男 イタリア便り 静かなカーレース

 イタリア人は自動車のF1レースが大好きだ。このため世界各地で行われるF1グランプリは必ず国営テレビRAIで実況中継される。日本では日本車メーカーが不景気でF1から撤退して興味を持つ人は減ったが、イタリアでは老舗のフェラーリが健在だから人気は落ちない。
 10年ほど前、F1グランプリをローマ市南部エウル地区の公道で行う計画が立てられたことがある。市当局も新たな観光名物になると乗り気だったが、騒音を恐れる住民の反対で昨年、正式に断念された。
 だが、大阪城でオートバイのモトクロス大会が企画される時代である。そんなことで諦めたらローマっ子の沽券(こけん)に関わるとばかり、2014年から電動レースカーによる「エコF1レース」を始める計画が生まれている。
 1チームはレーサー2人と最高時速220キロのレースカー4台で構成するという。レース車に搭載するバッテリーの寿命は最長25分間だそうで、F1レースのような給油やタイヤ交換はなく、車ごと交換するらしい。
 現在の計画では、コースはカラカラ帝の大浴場跡の周囲をメーンに約4キロが予定されている。ただし、実現したとしても、耳をつんざく爆音のないカーレースがファンの心をつかむかどうか、疑問ではあるが。
坂本鉄男
(4月21日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)