坂本鉄男 イタリア便り 永眠妨げる最新鑑定

世界では科学の進歩とともに、物体がいつごろできたかを調べる方法が生まれてきた。放射性炭素による年代測定やDNA鑑定などはその最たる例で、それらを応用することで、さまざまな分野で新たな研究が可能になった。

美術史の分野でも、最新技術を使った研究が話題になっている。イタリア中部ポルト・エルコレで死んだと伝えられてきた天才画家カラバッジョの骨を発掘し、DNA鑑定で正真正銘と判定され有名になった「墓暴き鑑定家」こと、シルバノ・ビンチェティ氏の研究がそれだ。

同氏はこれに味をしめたのか、今度はダビンチの名画「モナリザ」のモデルの骨を探し始めた。いろいろな書物を調べた結果、モデルとされる絹織物商フランチェスコ・デル・ジョコンドの妻リザ・ゲラルディーニが、フィレンツェのサンタ・オルソラ女子修道院に葬られたことは間違いないとの結論に達した。

当局から発掘許可と補助金をもらい、墓からいくつもの骨を掘り出し、その中から1本の歯を選びDNA鑑定を行うこととなった。万が一、本物だったら歯から最新の復元技術で生前の顔を再現、名画のモデルであったかどうかを確かめるという。

墓の中でも安らかに永眠できない時代になってしまったものである。

坂本鉄男

(2014年7月6日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)