坂本鉄男 イタリア便り 結婚無効の判決

カトリック教徒にとって結婚は「七つの秘跡」の一つであり、配偶者が死亡しない限り結婚は解消されないものとされている。

英国王ヘンリー8世が、世継ぎが生まれないことを理由にキャサリン妃との結婚の無効を法王クレメンス7世に承認してもらおうとしたが、法王は拒否し続けた。そのためへンリー8世は、最後にはカトリック教会とたもとを分かち、英国教会を設立したことは有名な話だ。

離婚が存在しなければ、教会当局から結婚の無効、つまり結婚そのものが存在しなかったとの証明を得るほかはない。バチカン市国にはこうした結婚の無効を判定する裁判所があって、これまでもヨーロッパの貴族やお金持ちが、すでに何年もの結婚生活を送っていたにもかかわらず、莫大(ばくだい)な弁護費用を使って結婚無効を認めてもらってきた。

それだけではない。イタリア全国には19もの宗教裁判所があって、ここでも結婚無効の判決を下しているのである。

最近、イタリア南部ベネベントの宗教裁判所が、2013年に312件もの結婚無効の判決を下し話題になっていた。

こういう手軽な裁判所があったなら、ヘンリー8世もわざわざ現在の英国国教会などを設立する必要はなかっただろうに。

坂本鉄男

(2014年8月10日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)