坂本鉄男 イタリア便り 司法改革の行方

イタリアは、これまで欧州連合(EU)諸国の中で最も裁判に時間がかかる国の一つとされてきた。実際、結審までに要する年数は民事で最低3年、刑事で平均4年で、この遅さが解消されれば、国内総生産は4・6%上昇し、金額にして960億ユーロ(約13兆円)の国益になるといわれてきた。

先ごろ、無駄な経費削減策の一つとして、上院(日本の参議院に相当)の事実上の解体・再編案を議会で通過させるのに成功したレンツィ首相は、今度は司法改革に乗り出した。まず、裁判の迅速化を図る手段として、裁判官と検事の年次休暇をこれまでの46日から30日に削減し、裁判所の夏休み休廷期間も8月1日~9月15日から8月6日~31日に短縮する案を出している。

また、検事および裁判官に与えられてきた特別待遇の削減や、最高裁では80歳近くまで認められている定年の引き下げ、誤審による被害者への損害賠償の裁判官の一部負担、これまで検事のほぼ要求通りに認められてきた電話盗聴への制限など、裁判官と検事に“痛み”を求める改革案も出している。

今後、司法関係者の大反撃も予想されるが、司法改革はレンツィ首相が提唱する「イタリア大改革」の要だけに避けては通れない。

坂本鉄男

(2014年10月12日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)