坂本鉄男 イタリア便り 頑迷な大使館領事部

外国に住んでいる邦人にとって、日本の外務省と大使館の領事部が場合によっては頼りない存在に思えることがある。

私たち夫婦は結婚して半世紀以上になるのだが、妻の免許更新や登記手続きなどに際し、彼女の姓が結婚後に変わったものの同一人物であるという証明書をイタリアの日本大使館から出してもらい、イタリア側の役所に急に提出しなければならなくなった。

日本から届いた戸籍謄本を持って大使館の領事部に行った。だが「日本の婚姻法により両者が同一人物である」という日本人にとって当たり前の内容は、正式な証明書として発行できず、公文書の性格が薄まる「領事レター」になり、外務省本省の指示で大使館の公印は押せないという。

公印がなく領事のサインだけの証明書は、当然ながらイタリア側が正式なものと認めず、困っている。

海外在留邦人が約120万人に及ぶ今日、私などよりも複雑な証明書を頼む邦人は多いはずだ。そのとき、役に立たないレターが発行されると思うとがっくりしてしまう。

在外邦人は増加傾向にあり、みな抱えている事情も異なる。だからこそ、それぞれの国の法規が求める内容により、臨機応変に対処してもらいたいと思う。

坂本鉄男

(2014年10月19日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)