坂本鉄男 イタリア便り 「塀の中」の菓子職人

話はやや古くなるが、去る7月初旬、ある食文化振興団体が主催する2013年度全国菓子コンクールで、参加した約300軒の菓子工場から最も優秀な10軒が選ばれた。

最高点を獲得して見事1位になったのは、なんとイタリア北部のパドバ市の刑務所内にある「ジョット」菓子工場であった。

ここは、元菓子職人の受刑者約15人が腕をふるう工場で、ビスケット類から高級菓子まで何種類もの菓子を製造している。

なかでも、「パドバの聖アントニオ」の名でイタリア中のカトリック教徒から信奉されている聖人アントニオにささげた、クルミやアーモンドなどナッツ類をベースにした「聖人のクルミ」は名高い。こうした菓子類はパドバ市内のみならず、イタリア各地へ出荷されている。

ここで腕を磨いた受刑者が出所後に民間の菓子製造所に引っ張られることは間違いなく、刑務所内の模範更生施設として外国からの見学者も多い。

この種の更生施設はほかにもあり、大都市ミラノの北西約30キロのブスト・アルシツィオ刑務所では、約40人の受刑者がチョコレートを作っていることで知られる。

日本の刑務所でも、菓子職人養成施設をつくってみてはいかがだろうか。

坂本鉄男

(2014年11月9日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)