坂本鉄男 イタリア便り 古代ワインは複雑

今年も新しいワインの季節になった。だが、世界で一番古いワインはどんな味だったのだろう。

ちょうど1年前、イスラエル北部の港町ハイファのさらに北の小さな町の建物の地下から、3700年前と推定される飲み物が入った入れ物40本が発見された。地中海沿岸の古代世界でワインや油の容器として、また輸送用容器として広く使われた細長い筒の形をした土器で「アンフォラ」と呼ばれるものだ。

味見した学者らは「ハッカ、シトロン、シナモン、蜂蜜、樹脂などの混じった味がした」といったそうだが、多分これは正しい。現在のようなワインが造られるまでには長い年月を要し、大昔は、ブドウだけでなくいろいろな果実と蜂蜜や各種香料を混ぜて発酵させ、各家庭が独自の風味を持つ飲料を造っていたといわれる。イエス・キリストが最後の晩餐(ばんさん)に飲んだワインもこの種のものではなかっただろうか。

ブドウだけでワインを造ったのは古代ギリシャ人だといわれ、これはほかの果物が手に入らなかったためらしい。

紀元前7世紀のギリシャの詩人・博物学者ヘシオドスは、「ブドウを日なたで干すとうまいワインができる」と書いたそうだが、この方法で造るデザートワインは今日も各地に残っている。

坂本鉄男

(2014年11月16日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)