坂本鉄男 イタリア便り 「漬けマグロ」の欧米風

「正月三が日に飲み食いし過ぎたから、さっぱりとしたマグロの握りでも食べに行くか」とおっしゃる方もいるだろう。

マグロの刺し身とすしの大好きな日本人は、世界のマグロの総水揚げ量の4分の1を消費しているとして、マグロ資源の枯渇原因の張本人のように言われている。だが、1人当たり年間平均約2・5キロを食べる日本人と比較して、イタリア人も約2キロも食べているのに何ら非難されない。

両国民の違いは、日本人はマグロを刺し身あるいはすしだねとして、つまり生で食べるのに対し、イタリア人はマグロ缶、つまりマグロの油漬けをパスタの具にしたりサラダに入れたりして食べるのである。つまり、食べるマグロの種類が違うのだ。

日本人が毎年トロのうまいクロマグロとミナミマグロの漁獲高の約90%を食べているのに対し、イタリア人たち欧米人は日本人が刺し身やすしだねとして昔はあまり手を出さなかったビンナガマグロやキハダマグロを缶詰の材料にしているのである。

かつて、地中海にクロマグロがうようよといたとき、冷凍技術も輸送手段も発達していなかったため、日本人の舌にのることなくほとんどが油漬けマグロ缶に化けていた。もったいない話であった。

坂本鉄男

(2015年1月4日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)