坂本鉄男 イタリア便り 「居ぬ」のお巡りさん

イタリアの警官には、犯罪捜査などを行う内務省所属の警官と、市町村所属の交通整理や駐車違反の摘発、商店の違法営業取り締まりなどを主な役目とする市警、つまり「お巡りさん」の2種類ある。今回お話しするのは後者、つまりローマ市の市警である。

去る12月31日の夜、本来なら勤務しているべきお巡りさん千人のうち835人が病気やその他の理由で欠勤したのである。

彼らの目的は市の財政危機から生じた手当削減への抗議だったが、混雑する大みそかの夜に市警の83%が突然欠勤するのは前代未聞の事態である。これには、レンツィ首相も怒り、欠勤届の厳重調査と違反者の処罰を命じた。

ローマ市には無断欠勤に対し11日間の停職から解雇までの罰則があるが、科せられたとのニュースは聞かない。市警は今年に入ってからも祭日や重要サッカー試合当日に欠勤を繰り返している。市警の組合は大量欠勤を悔い改めるどころか、今後のストまで公言するありさまだ。

昨年秋のローマのオペラ座のスト騒動では、経営者側が百八十余人の一括解雇を通告したら組合側はすぐ折れた。今回も市当局の対応次第であろう。イタリア共和国憲法第40条は「スト権」を認めているが、その法規の曖昧性に問題があるようだ。

坂本鉄男

(2015年1月18日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)