坂本鉄男 イタリア便り 日本の牛肉は「うまい!」

以前、日本の衛星放送の番組で日本での輸入牛肉の加工方法を見て驚いた。牛肉の赤身の上からたくさんの針のついた機械で穴をあけ、溶かした牛脂を注入していたのである。

これなら肉は軟らかくなるし、一見、日本人の好きな霜降り肉に近くなる。

日本の神戸牛や松阪牛などの霜降り肉は軟らかで本当にうまい。これに対して、イタリア産牛肉は硬いし、脂身はまずくて食べられない。イタリア人は脂身を嫌うため霜降り肉より硬くても赤身の肉を好む。

考えてみればヨーロッパ人の祖先は遊牧民族で数千年の昔から野放しの羊や牛の硬い肉に慣れてきた。特別の牛舎で特別の飼料を与え食用牛を育てるなど考えなかった。

一方、日本人は農耕民族の上、宗教的理由から獣(けもの)の肉は食べなかった。日本人が牛肉を食べ始めたのは僅か約150年前からだ。だが、牛肉はうまくても魚や野菜に慣れてきた日本人の歯には硬かった。だから、畜産農家は肉を軟らかくするため飼育に努力を重ねてきたのである。同じ軟らかくするにしても輸入肉に針を刺すのとはわけが違う。

今はうまいものには金を惜しまない金持ちが世界中にたくさんいる。日本の畜産業者は、米国産牛肉などを恐れずに自信を持ってうまい日本産牛肉を輸出すべきだ。

坂本鉄男

(2015年1月25日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)