坂本鉄男 イタリア便り 家族経営の企業気質

第二次大戦後から今日までイタリアの輸出を支え、産業の中心となってきたのは半国営企業と家族経営の私企業であった。

家族経営企業の長所は独創性をフルに生かし、家族が団結して企業の成長を支えられることにある。半面、家族経営の弱点は2代目、3代目になって家族内で不和が生じたり、経営が悪化すると高額な買収額を提示する外国企業に簡単に身売りしてしまうことだ。

これまで身売りした企業のうち、わが国でも有名なブランドのごく一部だけを挙げても、貴金属の「ブルガリ」、服飾関係の「バレンティノ」や「グッチ」、超高級毛織物の「ロロ・ピアーナ」、パスタの「ブイトーニ」など枚挙にいとまがない。

一方、自分の築いた企業を守る80歳前後の経営者もいる。第一に、世界一の眼鏡メーカー「ルクソティカ」の創業者レオナルド・デル・ベッキオ氏だ。最近、今まで任せていた優秀な社長を解任し再び自ら経営に乗り出した。

世界的ブランド「アルマーニ」の創業者ジョルジオ・アルマーニ氏も直系の後継者がいないためか、世界に従業員6千人を有する大企業の陣頭指揮を執っている。外部から人材を入れないこの2人を見ているとイタリアの家族式企業の長所と短所の原点が見えるような気がする。

坂本鉄男

(2015年2月8日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)