坂本鉄男 イタリア便り 地中海、波高し

イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の問題は、シリアやイラク北部のことだと考えられてきた。しかし、最近では地中海を隔ててイタリアの対岸にあるリビアでも組織に呼応するシンパが勢力を拡大し、イスラム国はイタリアを敵国だと名指しした。イタリアにとって地中海は危険な水域へと一変した。

これまでも、リビアの沿岸からは悪徳業者が大型ゴムボートや老朽船に難民を満載し、悪天候で波浪が高く沈没することが分かっていてもイタリア沿岸向けに出航させ、何千人という犠牲者を出してきた。イタリア海軍の艦船と沿岸警備艇はこうした難民を何万人も救助して国内へと運んできたのである。

2月11日には、リビアからボートで欧州を目指した約300人が行方不明になったことが判明した。

だが、残忍なイスラム国の一味がこうした難民船にテロリストを潜入させたり、爆薬を仕掛けたりするという噂が広まったから大変だ。救助に赴いたイタリア海軍の艦船が接近したとたん、あるいはイタリアの港に曳航(えいこう)されたときを狙って爆破することも可能になった。

世界にはわれわれにとっての一般常識が通用しない国々や組織があるだけに、危険に対しては絶えずアンテナを広げておくことが大切だ。

坂本鉄男

(2015年3月1日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)