坂本鉄男 イタリア便り トスカーナの温泉

 毎年6月初旬にトスカーナ南部の温泉に約1週間保養にいくことにしている。五つ星ホテルに併設された温泉で、トスカーナの美しい山並みを望む大きな野外温水プール、各種の施設が整った大小の室内プールやサウナなどがある。もちろん水着着用である。

 イタリア人の温泉療法は、昔から「鉱泉の飲用」が主力で、日本式の温泉につかる方式は、ローマ時代には盛んであったが、その後は途絶え、最近になって再び流行し始めた。

 イタリアの「飲用鉱泉」の歴史は古いが、ルネサンス期のフランスの哲学者で随想録で有名なモンテーニュ(1533~1592)が実際に服用した体験を書いている。彼は1580年9月から1581年11月末までフランス、ドイツ、スイス、イタリアを回った長い旅をつづった「旅日記」を残している。

 その中には、各国の国民性の違いなど数々の面白い記述があるほか、腎臓結石が持病であった彼は、イタリアでは各地の鉱泉や温泉を訪れ、実際に飲んだ鉱泉の効果について自分の体験と感想を書いている。

 なお、プールサイドで日光を浴びて全身真っ黒に焼くのは約80年前からのイタリア人の習慣だが、最近では皮膚がんになる危険が指摘されており、今後は廃れていくかもしれない。

坂本鉄男

(2015年6月14日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)