坂本鉄男 イタリア便り 消えた財産隠しの天国

 昔から、イタリアの金持ちが財産を隠す場所は隣国のスイスの銀行とモナコ公国の銀行、不動産と決まっていた。特に、金融王国で銀行の秘密保護が徹底していたスイスは、イタリアのみならず世界中の金持ちの秘密金庫であった。

 約40年前にイタリアが深刻な外貨不足に陥ったとき、当時の蔵相が「イタリア国民が外国に持っている外貨の一部を充てればこんな危機はいっぺんに解消できるのに」と発言した。当時は一般の日本人が外国にお金を隠すなど考えもしなかった時代だけに、びっくりしたことを覚えている。

 昨年2月にイタリア半島にある小国サンマリノ共和国と結んだ協定を手始めに、イタリアは今年2月23日、スイスとの間で同国内の銀行のイタリア人秘密預金口座を解消する協定を結んだ。同月26日には、これまた財産の隠匿場所として有名だったリヒテンシュタイン公国と同じような条約を締結した。

 そして去る3月初旬、モナコ公国とも同様の協定を結び、最後に4月1日、おひざ元のバチカン市国とも同じような協定を結んだのである。

 海外に計2千億ユーロ(約26兆円)もの隠し預金を持つと推定されているイタリア人の金持ちは今後どうするのか、興味がある。

坂本鉄男

(2015年6月21日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)