坂本鉄男 イタリア便り フンガイしています

去年の秋、ローマのテベレ川沿いの街路樹および市内の樹木に数百万羽のムクドリが飛来し、昼間はローマ周辺のオリーブ畑などで果実を食べ、夕方になると一斉にねぐらに帰り糞(ふん)をした。悪臭を放ち脂を含んだ糞は、路面のみならず橋の欄干、車の屋根にこびりつき、バイクの横転事故なども起こした。新年早々、市の清掃局はテベレ川の両岸の道路を閉鎖して清掃するなど莫大(ばくだい)な損害を受けた。

渡り鳥であるムクドリの飛来は今に始まったことではない。今から700年以上前にダンテ(1265~1321年)が不朽の名作「神曲」の地獄編第5歌で「(邪淫の罪を犯しここに落とされたものたちが)寒い季節に、空一面に広がり飛来するムクドリの群れのように」と詠んでいる。

ただ、この冬は市役所の対応が遅れたのが原因である。例年なら、秋の初めに街路樹の枝を下ろし巣を作らせないようにし、飛来当初に拡声器で爆音を流し追い払うなどの対策を講じてきた。今冬は予算不足からこうした措置がとられなかったのである。昨年12月に入ってから被害の大きさと市民の憤慨に驚いて対策を講じたがあまりにも手遅れであった。

自然災害は地震や洪水だけではない。対策を怠るとムクドリの糞害だってこのような甚大な人災になるのである。

坂本鉄男

(2016年1月17日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)