坂本鉄男 イタリア便り HIV感染認識しながら女性30人と関係 共存の流れに水

先月初め、気になる事件がローマで起きた。30歳代の男性が「故意による重犯罪」で逮捕されたのだが、その罪状にぎょっとさせられたのだ。

この男性は、自分が10年前からHIV(エイズウイルス)感染者であるのを認識していながら、15~30歳の女性約30人と性的関係を持ち、彼女たちの多くにウイルスを感染させたというのである。

当初は数人の女性からの訴えに基づいていたが、新聞におぼろげながら事件の概要が報じられると、あれよあれよという間に30人以上の女性が名乗り出て検査を受けたが、気の毒にも多くはHIVに感染していたという。

また、この女性被害者と関係を持った男性2人も感染者と判明した。

11月にも、ローマで40歳代のエイズ患者の男性が、重症になって病院に収容されるまで同居女性に打ち明けずにいたため、感染させられた女性から訴えられ、裁判で懲役10年を求刑されている。

この求刑からすると、今回の30歳代の男性は一層重い刑罰がふさわしいことになる。

最近、HIV感染者とエイズ患者への社会の理解が深まりつつあるのは喜ばしい。それだけに、今回の事件には残念な思いを禁じえなかった。

坂本鉄男

(2016年1月24日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)