シエナ遊々閑々 「春の雄羊 (Montone di Pasqua)」

こんにちは。みなさんお元気ですか?

気づけば寒さもだいぶ緩み、暦の上でも春となりました。

さて、2017年度は、シエナの町を分ける17区域「コントラーダ」をキーワードに、動物とイタリア語をテーマにしたお便りをお送りしています。

各コントラーダにはシンボルとなる生物、モノ、現象がありますが、今回は雄羊のコントラーダ Valdimontone (ヴァルディモントーネ)を取り上げ、羊をテーマにお便りしたいと思います。

ヴァルディモントーネ Contrada di Valdimontone

コントラーダの名前 Valdimontone は、直訳すると「雄羊の谷( val di montone )」。雄羊をシンボルとしています。

トレードマークは、シンボルカラーである赤、白、黄色の旗。中央には金地の盾が据えられ、猛々しく前脚をあげている雄羊が描かれています。

紋章学で「力、挑戦、頑強さ」を象徴する雄羊の頭上にはトスカーナ公国の王冠が輝き、旗の左上にはサヴォイア王ウンベルト1世のイニシャルが掲げられています。

コントラーダのモットーは「 Sotto il mio colpo la muraglia crolla (我が一撃で壁は崩れし)」と、勇猛です。これは、城壁など敵の防御壁を切り崩すために使われた「 montone (破城槌)」と呼ばれる武器にちなんでいます。

montoneは木の幹から作られた大きな梁で、その先端は雄羊の頭をかたどった金属で覆われていました。ヴァルディモントーネのモットーはその勇ましい武器の様子になぞらえられているというわけです。

イタリア語の「羊」

さて、現代イタリア語でmontoneというと雄羊のことで、星座の名前にもなっている ariete (雄羊、おひつじ座)はその同義語になります。

語源はそれぞれ異なり、 montone はガリア語に、 ariete は、ラテン語に由来していると言われています。

現代イタリア語にはそのほかにも「羊」を意味する単語があります。簡単にまとめてみましょう。
• montone :雄羊(成獣)。
• ariete :雄羊(成獣)。
• pecora :雌羊(成獣)。羊一般を指すこともある。
• agnello :1歳未満の子羊(雄雌とも)。

このように羊の成長度や性別によって厳密な呼び名が分かれていることから分かるように、羊は古くから地中海文化と深く結びついていた家畜です。

肉やミルクは食用に、皮は靴の裏張りや本の装丁などに用いられてきました。

いけにえの子羊

また、昔から広い地域で羊を神に供える文化的・宗教的習慣がありました。例えば、古代近東では春の到来と羊の多産を願い、春一番に生まれた羊をいけにえとして奉納する風習があったと言われています。

聖書の中でも羊は大切な象徴として描かれています。例えば、キリスト教では人々を救うために犠牲となった神の子イエスの象徴であったり、神の教えを必要とする人に例えられたりしました。旧約聖書の中ではヘブライ人が神に捧げられる大切ないけにえとされています。

そして、この時期、イタリアの復活祭( Pasqua )に欠かせないごちそうである子羊のロースト( agnello di Pasqua )は、春に子羊を捧げていたこれらの習慣がもとになっています。

旧約聖書『出エジプト記』のエピソードに結びついたユダヤ教のお祭り「ぺサハ(過越)」で子羊を食べる習慣は、とりわけ大きく影響しています。

復活祭と羊

イースター(復活祭)に食べる子羊の中でも、abbacchio と呼ばれる生後1か月くらいの乳飲み羊の肉はとりわけおいしいとされています。

しかし、最近は動物愛護運動の高まりとともに、agenello di Pasqua (イースターの羊)を食べることに反対するキャンペーンも見かけるようになりました。

「 Chi pecora si fa, il lupo se la magia (羊のように従順だと狼に食われる)」という諺のように、私たち人間も弱肉強食の世界に生きています。

イースターの伝統的な風習とそれへの反対は、私たち人間の存在や行動について難しい問題をなげかけているように思えます。

生命あふれる春。「 pecorella della Madonna (聖母マリアの小さな羊)」とも呼ばれるテントウムシのように、穏やかな太陽の光を浴びながら春の息吹を満喫したいものです。

ダンテ・アリギエーリ シエナ
ヴァンジンネケン玲