第69回談話会『日本企業アルカンターラ社が なぜイタリアNO.1企業になりえたのか』ご報告

6月2日(土)、第69回談話会が三笠会館で開催され、元アルカンターラ副社長小林元氏を講師にお迎えして『日本企業アルカンターラ社がなぜイタリアNO.1企業になりえたのか―日本の技術とイタリアの感性マーケティングの結婚―』についてお話を伺いました(参加者50名)。

食事の後、まずは当協会会長島田精一より、講師との仕事上の経験と経緯を踏まえて、本ケースが日本企業の技術とイタリア企業のマーケティングが融合し、ジョイントベンチャーとしては、稀有の大成功事例であるとの話を踏まえて、講師紹介されました。

1970年初めに東レは極細マイクロファイバーを使った人工スエード「エクセーヌ」を開発しました。この「エクセーヌ」をイタリアで生産され、ヨーロッパ市場に販売することになり、1974年イタリアとの合弁会社「アルカンターラ」が設立されます。その当時のイタリアはゼネストが多発し、経済が大変な状況での進出は、東レとしては大英断だったのです。

そこで出されたイタリア側提案のマーケティング戦略は驚きの連続でした。「エクセーヌ」の強みを機能性だけではなく、どんな色も出せてユニークなライフスタイルを提案できるところだと考え、顧客の層をアッパー(upper)とアッパーミドル(upper middle)に限定し、「アルカンターラ」として日本での倍の価格で売り出しました。

その用途は当初の衣料分野だけにとどまらず、家具、車の内装、IT機器のカバーと次々に拡大されていきました。彼らは日本人の発明した商品を単なる機能ではなく、その商品が実現する豊かなライフスタイルを訴求することで、よりその付加価値を作りだし受け入れられていったのです。

なぜそのような高価なものをイタリア人は買うのでしょうか・・それの答えは北イタリア人のライフスタイルの中にあると小林氏は言います。

イタリア人は確固たる人生観を持ち、その上に「仕事(laboro)」と何よりも「自由時間(tempo libero)」を大切なものとして位置付けています。それに対して日本人はテストでいい点数を取り、良い会社に入ればいい人生が送れるといった、さほどはっきりした人生観を持たず、「仕事」の残り時間に余りの暇として「余暇」があります。

日本人が就社するのに対して、イタリア人は自分のやりたい仕事として、文字通り就職するのです。日本人が個の次に大事なものが会社であるのに、イタリア人は個の次は仲間(Amici)があります。

そして常に他人を自分にとって大事な仲間になりうるかどうかを、上品な身なり、上品な身のこなし、教養ある話し方から判断しています。アッパーとアッパーミドルと呼ばれる階級では、不適切と判断されれば即解雇されることもあります。その為に語学やマーケティングの研鑽は欠かせません。もし万が一の時にもいい仲間を沢山持っていることが必要となります。より自分にふさわしい仲間を作るため、自分を表現して相手を魅了する方法のひとつとして、「アルカンターラ」がその役割を担ったのです。

長年の経験に基づくお話を伺い、ワーカホリックな日本人のライフスタイルとの違い、イタリアがファッションやインテリアで輝いている所以を垣間見ることができました。小林様、ご講演ありがとうございました。

講師プロフィール
小林元 こばやし はじめ (小林国際事務所代表)
東レ株式会社入社後、約40 年間にわたってヨーロッパ、アフリカ、中南米など一貫して海外事業に携わる。2004 年にはイタリア文化会館から「マルコポーロ賞」、06 年にはイタリア政府から「コメンダトーレ(連帯の星騎士勲章)」を授与された。明治大学特別招聘教授、文京学院大学客員教授、東レ経営研究所特別研究員、日伊協会理事を経て現職