坂本鉄男 イタリア便り 一生、すねをかじられる

 近ごろは、子供が欲しくないという若い夫婦が増えてきたといわれる。だが、イタリアの最近の裁判を眺めていると、一概に彼らの選択が間違いだとは断言できないような気がする。

 最近、北イタリアのベルガモ市の裁判所が、32歳でいまだに大学に在籍して職に就いていない無職の女性が父親を相手取って起こした養育費支払い請求を正当なものと判断し、月350ユーロ(約4万3千円)の支払いとこれまでの未支払い分の一括支払いを命じた。

 もっとも、こうした裁判は少なくなく、その判決もまたさまざまである。例えば、ローマ裁判所は「これまでの10年間と同じような養育費」を60歳の父親に求めた30歳の女子大学生の要求を不当として退けた。

 また、ミラノ裁判所も、大学の工学部出身の36歳の息子が「これまで通り毎月2千ユーロ(約25万円)の養育費を支払え」と、著名な外科医の父親を相手に起こした請求訴訟でも、息子側の要求を退けている。

 イタリアの大学の授業料は日本と比べて高くはないし、奨学金の返済義務もない。大卒の失業率の高さに最大の問題があるのだ。

 それでは、親は一体、いつまで子供の養育義務を負わなければならないのだろうか。この点、生活保護法のないイタリアの民法はあいまいで、伝統的な「家族主義」に責任を負わせる面が強い。

 つまり、裁判官の判断によっては子供に「一生、すねをかじられる」危険なきにしもあらずなのである。

坂本鉄男
(2月21日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)