坂本鉄男 イタリア便り 「脱原発」の反面教師

 先月半ばから8月初めまでのローマは、クーラーの必要がないくらい涼しく、むしろ明け方は夏掛けを必要とするほどであった。今後、酷暑がぶり返したときが恐ろしいがクーラーをつければ済むことだ。

 日本ならさしずめ新聞が「節電への天の助け」とでも書くところだろうが、この国には今さら「節電」など呼び掛ける必要がないほど、普段から電気の使用にケチになっている。

 過去四半世紀に2度の国民投票で「脱原発」を決定・再確認したイタリア国民は、天然ガスと石油を燃料とする火力発電に頼り、不足分は隣国の原発大国フランスから輸入しているため、欧州連合(EU)内で一番高い電気料金を支払っているからだ。

 万一、フランスが電力輸出を断れば全国的な停電となり、クーラーはおろか全産業がストップする恐れもあるが、気にする様子はない。また、EU諸国が本気で「脱原発」に踏み切った場合、天然ガスと石油の国際価格がさらに高騰し、電気料金が天井知らずの高さになる恐れがあることも気にしない。

 まさに、今後の日本国民が向かおうとしている姿を先取りしているようなノンキな国である。イタリアはわが国にとって常に「反面教師」的なところがある面白い国である。

坂本鉄男
(8月7日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)