坂本鉄男 イタリア便り チーズに地震被害

 去る5月下旬、イタリア北部エミリア・ロマーニャ州の一部が局地的強震に襲われた。過去数百年間も大きな地震がなかった地方だけに耐震建築などは皆無にひとしく、レンガ造りの教会や歴史的建造物に大きな被害が出た。

 さて、肥沃(ひよく)な田園が広がるこの一帯は、イタリア料理に欠かせないチーズ「パルミジャーノ・レッジャーノ」(パルメザンチーズは英語名でイタリア産チーズには使用しない)の生産地で、この国際的に名高いチーズの生産者も甚大な損害を受けた。

 小売店で売られる小さな塊や粉チーズに慣れた方には想像しにくいと思われるが、このチーズの原形は大人が両腕で円を作ったくらいの大きさの石臼状のもので「フォルマ」と呼ばれる。1個のフォルマの重量は35キロから40キロほどで、1個の生産に約550リットルの新鮮な牛乳を要する。フォルマの横腹に組合印、生産年月、生産者番号などが入れられ、空調完備の倉庫で約2年前後熟成させてから出荷する。

 エミリア・ロマーニャ州は、州全体で年間300万個のフォルマを生産する大産地だ。今回の地震では13カ所の大型熟成倉庫や中小の倉庫が全半壊し、約100万個のフォルマが被害を受けた。損害額は2億ユーロ(約200億円)に上るという。

坂本鉄男
(6月24日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)