坂本鉄男 イタリア便り 建造物の老朽化

 35年前に開通した中央自動車道の笹子(ささご)トンネルの天井板が崩落し、気の毒にも通行中の車3台に乗っていた9人が死亡した。原因の一つに、天井板をつっていたボルトの老朽化の可能性が挙げられている。あらゆる建造物には寿命があり、老朽化は避けられない。
 ローマを訪問した方々なら誰もが見物なさったであろう、あの「コロッセオ」も老朽化が進んでいる。昨年の暮れから今年にかけ、外壁かられんがや石の破片が落下する事故が起きた。
 なにしろ、年間数百万人という観光客が訪れる名所だけに、とうとう市当局と考古学監督局が、落石などによる死傷者が出ないうちにと、周囲を柵で囲み15メートル以内に人が立ち入らないようにすることを決めた。だが、老朽化といってもコロッセオは、35年前に完成した笹子トンネルとは比較にならないほど古い。なにしろ、ベスパシアヌス帝の西暦75年に建て始められティトゥス帝の80年に完成したのだから、既に1900年以上たっている。
 こう考えると、今から200年後に残っている建物は、ローマ時代の壁の厚さが5メートル以上もある堅牢(けんろう)一点張りの建造物なのか、高度の構造力学により無駄を省いて建てられる現在の高層建造物なのか、果たしてどちらなのだろうかと考えてしまう。
坂本鉄男
(12月9日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)