坂本鉄男 イタリア便り エトナ火山

 富士山が世界遺産に登録された際、イタリア南部シチリア島のエトナ火山も世界遺産に選ばれた。標高が3320メートルを超えるエトナ火山はヨーロッパ大陸最大の活火山であり、シチリア島で最も高い山でもある。その噴火活動は、記録に残る限り2700年前から現在まで続いている。

 有史以前から噴出された火山灰などによってできた地層は、広大な裾野を肥沃(ひよく)な土地にした。

 一方で火山活動による噴火と地震の被害も多く、最近の500年をみても、1669年の噴火では、溶岩がシチリア島第2の都市カターニアの一部をのみ込んだ。1983年の噴火では、山腹のスキー施設やケーブルカー施設を破壊している。つまり、夜空に火を吐くこの美しい火山は、住民にとり恵みでもあり恐怖でもあるのだ。

 有史以前からの活火山だけに、ギリシャ神話に登場することも多く、全能の神ゼウスが怪物の親玉デュポンをエトナの下に閉じ込めたため、脱出しようとして噴火を起こすといわれた。また、紀元前450年頃に活躍したシチリア島出身の哲学者エンペドクレスは、自説の四元素説を確かめようとエトナの火口に身を投じたともいわれる。

 エトナが世界遺産に登録されてもシチリア島ではお祭り騒ぎになっていない。

坂本鉄男
(7月7日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)