坂本鉄男 イタリア便り 秋の楽しみ

 秋は白トリュフ(イタリア語ではタルトゥーフォ)の季節である。フランスでは黒トリュフを珍重するが、イタリアで「食べ物の王者」といえば、白トリュフである。

 一年中、いろいろな種類のある黒トリュフと違って、9月中旬から12月中旬までしか採れない。産地としては伊北部ピエモンテ州のアルバ町一帯が有名だが、中部の山間地でも採れる。

 昨年は100グラム当たり400ユーロ(約5万3千円)以上していたのに、今年は豊作で300ユーロ以下である。とはいえ、日本の秋の味覚の王者「マツタケ」よりはるかに高い。黒トリュフの方は大体、白トリュフの10分の1の値段だと思えばよい。

 谷間の樫やブナの根元の土中から、犬の嗅覚を使って採る。形は小ぶりのジャガイモに似て、色は「白」と呼ばれていても実際は薄い褐色だ。表面の汚れを拭き取り、生のままスライスして料理にふりかけて香りと味を楽しむ。掘ってから48時間たつと味も香りも急速に減少するので、日本で本場の味をいただくのは難しい。

 先日、ミシュランで星1つを獲得した若い日本人シェフのレストランで食べた。さすがに彼は最良の料理法を知っていて、オードブルでは「温泉卵式に65度でゆでた半熟卵」の上に、その次はリゾットの上に直接、スライスしてくれた。

坂本鉄男
(11月3日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)