坂本鉄男 イタリア便り 法王とスパイの長い歴史

 米国の情報機関が世界各国の首脳の電話を盗聴していたというニュースの中でローマ法王の名前も取り沙汰された。日本には、まさか「オバマ米大統領やロシアのプーチン大統領ならいざ知らず、ローマ法王なんて」と笑う人はいないだろう。だが、もしいたとすれば、自分の国際的知識のなさを告白しているようなものだ。

 米経済誌「フォーブス」が2013年の「世界で最も影響力がある人物」を発表した。1位プーチン氏、2位オバマ氏、3位習近平中国国家主席に次いで、4位にはローマ法王フランシスコの名前を挙げていた。世界最大の宗教カトリック教会を刷新しようとする法王の努力、彼の貧者や弱者に対する正義感の社会的影響を評価したものだ。

 法王の政治的社会的影響力は大きく、これに対するスパイ活動の歴史も古い。

 ムソリーニのファシスト政権はバチカン市国の暗号表を手に入れ無線を傍受していたし、東西冷戦時代には、東欧側の情報機関がローマ法王庁・カザローリ国務長官のデスクの上のマリア像に精巧な盗聴装置を仕掛けたこともある。また、東欧側のテロリストが東欧社会主義圏を崩壊に導く危険な人物として、先々代の法王、ヨハネ・パウロ2世を暗殺しようとした事件も起こっている。

坂本鉄男
(11月10日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)