坂本鉄男 イタリア便り 「騎士団」詐欺

 詐欺には人間が持つ「名誉欲」を利用するものもある。最近、イタリアで「マルタ騎士団」の名前をかたり、偽の騎士証明書や勲章をつくって金銭を巻き上げる詐欺団が逮捕された。

 マルタ騎士団とは、1099年の第1回十字軍による聖地エルサレム奪還の後、聖地を訪れるヨーロッパ人の巡礼保護と救済のため、イタリア貴族を中心に組織されたヨハネ騎士団に源を発する。その後、ヨハネ騎士団はイスラム勢力に追われ、初めはロードス島、次いでマルタ島に逃れ、マルタ騎士団と名称を変えた。

 しかし、1798年、エジプト遠征途上のナポレオンに占領され領土を失い、ローマに本拠を移した。領土は失ったものの幾世紀にわたる活動が認められ、イタリアをはじめ多くの旧キリスト教国が外交関係を結び、ローマの本部も治外法権を与えられている。

 現在の活動は、国際的な医療活動や社会奉仕が主なものだ。昔は、騎士団の騎士になるには、両親の家系が200年間貴族であることなど厳しい要件があったため、騎士の資格は非常に格式が高かった。

 だが、今では大部分の騎士は当然なことながら貴族の出身ではない。ここを詐欺団に利用されたわけである。

坂本鉄男
(11月17日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)