坂本鉄男 イタリア便り 銀行員待遇の衰退

 イタリアでも銀行勤務といえば、少し前まで皆が羨(うらや)ましがる安定した職業であった。昔は支店の数が少なかったので、客を長時間待たせても平気な上、営業時間も午後1時半までという殿様商売だった。

 ところが、欧州連合(EU)域内の規制撤廃で他国の銀行が進出できるようになり、競争が激化した。各行とも支店の数をむちゃくちゃに増やし、午後の窓口の営業時間も延ばした。

 この結果、住宅地にあるわが家の周辺1キロ以内に9つもの支店があるほどの過当競争になった。しかも、現金自動預払機(ATM)とインターネットによる払い込みなどが普及し、窓口業務は激減したのである。

 こうなれば行員が削減されるのも無理はない。2008年から4年の間に2万8500人の人員削減(定年退職などを含む)が行われ、銀行員総数は31万人に減った。だが、まだ4万人が余剰人員だという。しかも、全国銀行協会は9月中旬に組合側に対し、12年に結んだばかりの労働協定を来年で打ち切ると通告した。組合側はこれに対抗し、10月31日に13年ぶりとなる全国ストを行うと宣言した。

 果たして本当にストをするか否かは別として、銀行員が安定した職業でなくなるとは、時代の移り変わりを痛感させられる。

坂本鉄男
(10月27日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)