坂本鉄男 イタリア便り 青かびチーズ・ゴルゴンゾーラのにおい 日本人向きの「甘口」、「辛口」は強烈

7月に日欧の経済連携協定(EPA)が大枠合意に達し、輸入拡大が見込まれる欧州産チーズ。フランスに負けず劣らず、イタリアにも豊富な種類のチーズが存在することが、日本ではあまり知られていない。

 牛乳あるいは羊乳のチーズを青かびで熟成させたブルーチーズでいえば、イタリアのゴルゴンゾーラはフランスのロックフォール、イギリスのスティルトンと並び、世界の三大ブルーチーズと称されている。近年は日本でもかなり人気で、そのままパンに塗って食べたり、パスタのソースに混ぜて使われたりしている。

 北伊のピエモンテ州とロンバルディア州の特産品。牛乳のみを原料とする。名前の起源はロンバルディアの州都ミラノの東、約15キロのゴルゴンゾーラ村だ。それほど歴史の古いチーズではなく、15世紀以降のものといわれる。

 普通は店で切ってもらい購入するが、原型は直径25センチ前後、高さ15センチほどの円筒型である。甘口(ドルチェ)と辛口(ピッカンテ)の2種類があり、50日ほど熟成させた甘口は、青かびの量も少なく、独特のクセはそれほどではない。

 一方、辛口は甘口の原形に針で穴をたくさん開け、内部まで青かびを浸透させ80日ほど熟成させたものだ。慣れない日本人は、匂いの強い辛口は避けた方が良い。

坂本鉄男

(2017年9月10日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り ローマにもいた 露店牛耳る大親分一家 巨額の権利保持する「帝国」の実態

香具師(やし)とは、縁日などで露店や見せ物などの場所割りをする地元の顔役のことで、的屋(てきや)とも呼ばれ歴史は古い。日本独特の存在だと信じていたら、ローマにもよく似た露店の大親分一家がいることがわかった。

 秋から冬にかけ、ローマを観光で訪れた方は、スペイン広場の角をはじめとする目抜き通りの方々に露天の焼きぐり屋があるのを覚えておられるだろう。あるいは夏、観光名所に駐車して冷たい飲み物などを売っている小型バス式の野外販売店が記憶に残っているかもしれない。それらのほとんどは、「トレディチーネ一家」の下で働いている。

 ローマ市が許可した野外販売の小型バス68台のうち42台は、この一家のものだという。ある労働組合の試算によると、この販売店の権利だけで時価総額は5千万ユーロ(65億円)に上るという。

 このほか、クリスマスの時期にナボーナ広場を埋め尽くす露店や、野外劇のテントなども一家が多くの権利を持つ。市当局も口を挟めないほどだ。

 一家の初代ドナート氏は1969年に田舎から出てきて昼は労働者、夜は焼きぐり屋として働いた。人々がこの世界のうまみにまだ気づかないときに、市からさまざまな形態の権利を取り集め、「露店帝国」を築いたという。

坂本鉄男

(2017年9月3日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 代表的貝料理 コッツェの食べ方

イタリア語で「コッツェ」とはフランス語の「ムール貝」のことである。日本にも「イガイ」の名前で存在するが、小さくて食用としてはあまり一般的ではないかもしれない。イタリアのレストランで魚介類のパスタを注文すると、エビ、アサリなどのほかに、黒くてやや細長い、大ぶりのコッツェがたくさん入ってくる。案外身が小さいものも多いが、コッツェだけを注文すれば大きなものを山盛りにした皿が運ばれてくる。

 ヨーロッパの海、特にイタリアやフランスの静かな海では、いかだがずらりと並び、波に揺れている。コッツェの養殖いかだだ。いかだから海底にわらのひもを垂らし、稚貝を付着させて大きくさせる方法をとる。

 ナポリ衛生局などは、A型肝炎にかかる危険が非常に大きいとして、きれいな海水で養殖されたもの以外は生で食べないよう注意喚起している。もっとも、温度85度で15分、100度で1分煮れば安全というから、十分火を通したものを食べれば問題ない。

 一方、家庭でコッツェを料理する際は掃除が大変だ。貝からわらを引き抜き、金属たわしで貝の付着物を落とさなければならない。

 結局、レストランで食べるべき代表的貝料理の一つである。

坂本鉄男

(2017年8月27日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 放置された180万年前の鯨の化石

古くから鯨の肉を食べてきた日本人と違い、鯨と関わりのない国民、とりわけ山間部の地域住民にとって鯨の化石など全く興味がないらしい。

 奇妙な屋根を持つ石積みの家が並ぶ街アルベロベッロと並び、南イタリアの日本人観光客が必ず訪れるのが、谷の岩場の斜面を掘った「洞窟住居」で知られるマテーラだ。

 2006年の夏、マテーラから数キロの人工湖付近で農民夫婦が推定180万年前の鯨の化石を発見した。脊柱12個、脇腹の骨や顎など多数が見つかり、全長は世界最大級の25メートルに及ぶという大発見だった。しかし、その後10年間箱詰めにされ、詳しい調査が行われないまま放置されてきた。

 一方、発見者の農民は、「貴重な品物を掘り当てた場合、その価値の半分の報奨金が与えられる」と聞いていたので、しびれを切らし弁護士を立てて国を訴えた。この結果判明したのは、予算不足でこの貴重な化石を放置してきた事実だった。

 マテーラは、世界遺産に指定される洞窟住居で観光客を集め、19年には一年間にわたり集中的に各種の文化行事を展開する「欧州文化首都」にも指定されている。欧州を代表する文化都市だというのに、「世紀の大発見」といわれる化石に目を向けないのは不思議でならない。

坂本鉄男

(2017年8月20日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り オトコたちに朗報?

離婚の原因は洋の東西を問わず男性側の浮気がいちばん多いようだ。これまでのイタリアだと、ある程度資産家の男性に非がある場合には「元妻が死ぬまで、結婚生活時の水準を維持していくだけの扶養費を支払い続けるか、それに見合う金額の慰謝料を支払うこと」が離婚調停の成立条件の一つになることが多かった。

 例えば、イタリア有数の資産家であるベルルスコーニ元首相の場合も、長年連れ添ったベロニカ・ラリオ元夫人に対し法定別居期間中の扶養費として、1審では広大な屋敷など不動産のほか、月々300万ユーロ(約3億7千万円)を支払うよう命じられた。あまりに高すぎるとして訴えた最高裁判所でも、つい最近、減らされたとはいえ月々200万ユーロの支払い判決を受けた。

 さて、同じ最高裁は、去る5月に「離婚の慰謝料は、元妻に経済的余裕がある場合にはこれを勘案して定める」との革命的ともいえる判決を下した。イタリアでは離婚に伴う慰謝料支払いのため夫が住居を売り貧しい暮らしに陥っているケースが多いだけに、当事者の男たちにとっては“福音”ともいえる内容にちがいない。

 一方で元首相のように高額な扶養費を支払っている金持ちが、減額を求め法的措置に訴える事態も予想される。

坂本鉄男

(2017年6月18日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 山火事との闘い

南欧の夏は山火事との闘いである。雨が何カ月も降らず乾燥した森林が薪のように火がつきやすくなることに加え、放火が多いという問題も抱えている。

 先月も、ローマ郊外の海岸沿いにある松林が広範囲にわたって焼け、近くに別邸を持つ大統領は「放火魔には刑法を改正し厳罰を」と訴えた。放火犯の量刑は4~10年の禁錮刑と重いが過失の場合は1~5年と軽い。これまで故意を立証するのが難しく、軽い刑で終わってしまうことが多かった。

 さて、山火事の際に威力を発揮するのは、カナダの航空機メーカー、カナディア社で開発された消火用飛行艇である。最大時速250キロで現場に飛行し、大量の水を一気に投下する。給水には海や湖の水面すれすれを時速140キロで移動し、わずか12秒で6千リットルもの水をくみ上げていく。

 ただ、1機約260億円と高価なのが欠点。イタリアで稼働する同型艇16機は全て民間の所有で、国が契約を結び借り上げている。今年のように山火事が多いと、国家の支出は莫大(ばくだい)だ。

 歌舞伎や落語でおなじみの「八百屋お七」は、火事が縁で知り合った恋人に会いたい一心で放火に及び、火あぶりに処せられた。やはり、犯行には厳罰が待ち受けていることを周知させることが重要ではないか。

坂本鉄男

(2017年8月13日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り クレオパトラの鼻はそんなに素晴らしい?

古代ローマのジュリアス・シーザーとアントニウスの両英雄をその美貌でとりこにした絶世の美女、クレオパトラ。紀元前30年8月に毒蛇コブラに胸を噛ませて(一説には毒薬を飲んで)黄金のベッドの上で自殺した。彼女の死は、プトレマイオス朝の古代エジプト王国の滅亡を招いた。

フランスの哲学者、パスカルの有名な表現「クレオパトラの鼻がもう少し低かったら世界の歴史は変わっただろう」(原文の意訳)とあるように、クレオパトラはエジプトの女王ではあったがギリシャ系の生まれで、鼻が高く目の大きい美しい容貌をしていたものと想像される。しかし、彼女の顔を描いたものは残存していない。

 現代人は、ハリウッド映画で名女優、エリザベス・テーラーが演じたクレオパトラの顔を想像するが、全然違っていたかもしれぬ。実際、パスカルもクレオパトラの美しさを評価したわけではなく、「顔の一部である鼻、すなわち些細(ささい)なことが、大きな影響を与える可能性がある」ということを意味したとも言われている。

 日本人は、鼻が低いことに劣等感を持つ必要はない。白人だって、鼻が高すぎるのを気にしている人もいるのだから。貴方の彼女の鼻が一番奇麗だと思っているほうが利口ですよ。

坂本鉄男&

(2017年8月6日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 食い止めた「偽装出産」

ローマの南、ラティーナ市。強盗罪で入獄したばかりの夫と面会するために妻が偽装出産を計画した。子供連れで面会を申請すると、許可される可能性が高まると考えたためだとみられる。

 妻は、悪徳仲介業者に妊娠4カ月のルーマニア人の独身女性を探してもらい、出産と同時にその赤ん坊を受け取る契約を結んだ。近所に怪しまれないように、腹に少しずつ厚い袋を巻き付けていき、妊娠しているよう装った。

 市役所の戸籍係に何度も足を運んでは、出産の届け出の方法まで尋ねる念の入れようだった。

 そして、今年2月、届けられてきた赤ん坊を見て驚いた。黒い肌だったのだ。夫婦はともに白人。妻はすぐに「約束と違う」と赤ん坊を返した。

 一方、不審に思ったのは市役所の戸籍係。出産予定日を1カ月以上過ぎたのに、あんなに熱心だった女が姿を見せない。女の自宅の近所を訪ねたが、出産したという噂はまったくなかった。

 そこで届けを受けた警察が捜査した結果、「偽装出産」が判明した次第。赤ん坊は本当の父親である、アフリカ系移民の黒人男性に引き取られた。

 仕事熱心な公務員がいたからこそ、赤子は無事であったわけである。

坂本鉄男

(2017年7月30日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り
 妻帯を許さぬカトリック…でも、少年への性的虐待、愛人囲う法王まで… 特異な制度の影

 キリスト教の中でもカトリック教会だけが司祭の妻帯を許さない。このため、結婚するとカトリック教会から除籍されてしまう。妻帯を禁ずるようになったのは1139年の第2ラテラーノ公会議以来とされるが、それ以前は妻帯は普通であったし、その後も規則はたびたび破られた。

 典型的な例はスペイン・ボルジャ家出身の15世紀の法王アレクサンデル6世である。カトリック教会の最高位にあって模範を示す身でありながら、半ば公然と愛人を囲った。息子チェーザレや娘ルクレツィアを自らのおいやめいと称し、バチカンの要職につかせたり大貴族に嫁がせたりした。

 一方、ドイツ南部レーゲンスブルクのカトリック教会の少年聖歌隊では今月18日、1990年代初頭までの約60年間に、500人以上の少年らが暴力や性的虐待を受けていたことが明らかになった。世界各地のカトリック教会でも同様の疑惑が指摘されており、特異な制度の影を浮き彫りにしている。

 正直に愛する女性と結婚し、教会を追われた元司祭はイタリアだけで4千人、全世界では10万人とも推定される。先ごろ、妻帯者である元司祭の一部が、法王フランシスコに「復権」を請願した。彼らこそ、信者の人生を最も理解できるものであると思うのだが。

坂本鉄男

(2017年7月23日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 恐怖! 銃器保持者は12.5人に1人 隣人の懐にもピストルが…?

 最近の刑法改正で、正当防衛が「程度」を越えたと判断された場合の「過剰防衛」の罪が軽くなり、護身用の銃器所持許可証の申請が急増しているという。イタリアでは、犯罪歴がなければ、貴金属商や銀行警備員のほか、クレー射撃選手や狩猟愛好家に対し、それぞれ護身用ピストルやライフル銃などの所持が許可されている。

 銃器所持許可証を持つイタリア人は全国で約480万人。彼らが所持するピストルやライフル銃の数はなんと、1千万~1200万丁の多きにのぼると推定されている。2016年のイタリアの人口は約6千万人だから、計算上では赤ん坊を含め12・5人に1人は銃器所持の許可を受け、実際に所持していることになる。

 こうなると、混雑した電車やバスに乗ったら隣に立っている人がポケットにピストルを忍ばせている、という状況もまったく不自然ではないことになる。

 この点、日本は安全だ。16世紀の豊臣秀吉の「刀狩令」以降、一般人の武器携帯は基本的に許されず、今日に至っている。銃器の不法所持の罰則も日本は「1年以上10年以下の懲役」だ。しかし、イタリアでは3カ月から1年までの拘留とはるかに軽い。銃器の取り締まりは厳しいに越したことはない。

坂本鉄男

(2017年7月16日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 「イタリア便り」 難民問題にのんきな日本人

 難民問題を本当に理解していない日本人は幸せだ。イタリア政府は2016年に約20万人、今年は想定22万人と年々増え続ける難民問題で音を上げ始めている。鳥取県の人口が約60万人弱。わずか数年の間に日本の小さい県の人口と同じ位の数の難民が押し寄せたとき、日本がどう対処できるか考えてみるといい。

 もともとドイツの主導で欧州連合(EU)が「人道的救済と受け入れ」を決めたのは、トルコからギリシャを経由し中欧と北欧を目指して逃げてくるシリアからの難民であった。ところが、EUの受け入れを知った政情不安定なアフリカ各地からの多数の難民が、リビア北岸から地中海を渡り、イタリアへと押し寄せてきたのである。

 地中海上ではイタリア海軍と沿岸警備隊の艦船に加えて、「国境なき医師団」などEU各国の民間の人道的救済団体の船舶も積極的に難民を救出。イタリア南部の港湾都市では、受け入れ態勢が飽和状態になっている。難民の中には、北アフリカで洗脳されたテロリストが潜伏している可能性もある。

 EUは早急にアフリカ難民をリビアで食い止める手を打たなければならない。日本も今のうちに、日本海を渡ってくるかもしれない難民の問題を真剣に考える必要がある。

坂本鉄男

(2017年7月9日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り マフィアボスの受刑者どうする…罪を憎んで人を憎まず?

シチリア・マフィアのボス中のボスとして君臨したサルバトーレ・リイーナ受刑者をめぐる議論が現在、イタリアで沸き立っている。マフィア仲間のみならず、元憲兵総司令官からマフィア担当の敏腕検事、その護衛の警察官を含む、数十件の殺人事件の首謀者として20以上の終身刑(イタリアには死刑は存在しない)を宣告された「凶悪犯」。1993年に逮捕され入獄し、80歳を超えて現在は病気療養中だ。

彼は、逮捕されるまで24年間にわたり警察の目を逃れ、その間もマフィアを指揮し、罪を犯し続けた。逮捕後も司法当局の捜査に協力することはない。

 だが、最近、最高裁判所の判事の一部から「いくら重罪犯でも高齢で重病なのだから最後は自宅で死なせるべきでは」との意見が出た。すぐに、これに対する反論がわき起こった。<br /><br /> 犠牲者の家族や捜査当局者の間では、数十年にわたり国家権力に対抗して凶悪な犯罪を重ねてきた者に対し、国家が科した罰を最後まで負わせるべきだとの意見が圧倒的に多い。

日本でも犯罪者の権利を重んじて、被害者の家族の心情などを軽んじる判決や意見が多いとの指摘がある。「罪を憎んで人を憎まず」。犯罪者が真に悔悟したときにのみ、使うべき言葉ではないだろうか。

坂本鉄男

(2017年6月25日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り
最初に溺死するのは子供たち…粗製ボートで地中海渡った6000人の未成年難民

冬の海が荒れる時期が終わり、波が穏やかな夏が近づくとアフリカのリビア沿岸から大量の難民がイタリアを目指して地中海を渡ってくる。昨年の難民到着数は18万人だったが、今年はこれまでの最高記録の20万人に達すると予想されている。イタリア自体が就職難を抱え、他のEU諸国にもこれだけの難民をタダで養う経済的余裕はない。

彼らアフリカ難民は、リビア沿岸の渡航斡旋(あっせん)業者に1人当たり約1000ドルを渡し、100人以上が乗ることができる大型ゴムボートにすし詰めにされて地中海に押し出される。しかも、ゴムボートは粗製乱造で約10時間後、つまりイタリア沿岸に着く前に沈没するものが多いといわれ、結局、イタリアの沿岸警備艇と民間援助隊の船舶が救出している。

 難民の中には、子供だけでもヨーロッパに逃れさせたいと思う親も多く、昨年だけでも誰も付き添いがいない未成年者が6000人もいた。ボートが転覆するときは、最初に溺死するのはこの子供たちである。

 難民流出を防止するには、リビア沿岸に拠点を置き巨万の富を築く悪徳業者の一掃が必要だ。だが、リビア側の積極的協力がないため、今夏も地中海を舞台にこうした業者が横行し、大勢の子供の命を奪い続けるだろう。

坂本鉄男

(2017年6月11日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 「海栗」食べるなら日本

俳句の春の季語にもなるほど、日本人のようにウニを好んで食べる国民はいない。昔は日本中の磯で取れたものが、今や国産は1割であとは輸入物というからびっくりする。

 ウニの漢字表記にしても、主として生のものを指す「海胆」と「海栗」の他に、日本人が酒のさかなによく口にするアルコール処理をした瓶詰の「雲丹」まで3種類もある。

 表題に「海栗」を選んだのは、イタリア語のウニの名称「リッチ・ディ・マーレ」(海のハリネズミ)とイガグリのイメージが似ており、外見上一番ふさわしいからである。

 日本では魚屋にもすし屋のケースの中にも、きれいに箱詰めにされた大きなバフンウニが並んでいるが、イタリアでは輸入物のネタを使うすし屋で時折見かけるだけで、普通はお目にかかれない。イタリアの海で取れ食用にされるのは、一種の小型ムラサキウニだけで中身は極めて少量だ。

 10年ほど前、知人がサルデーニャ島の屋台で約40個のウニを割らせ、中身だけを瓶に詰めてきてくれたが量はわずかであった。シチリア島などの海辺のレストランで時々「ウニであえたスパゲティ」に出合うこともあるがまれである。

 ウニのシーズンが来ると、つい「日本ならうまい生ウニが食べられるのに」と思ってしまう。

坂本鉄男

(2017年6月4日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り サンタのロシア訪問

  イタリア南部バーリ市の大聖堂から聖ニコラ(ロシア正教では聖ニコラウスやニコライ)の遺骨を納めた聖櫃(せいひつ)が21日、ロシアに運ばれ、モスクワの大聖堂で公開された。多数の正教徒が礼拝のため訪れている。

  昨年2月、ローマ・カトリック教会の頂点に立つローマ法王フランシスコとロシア正教会の最高位キリル総主教が1054年のキリスト教会の東西分裂以来となる歴史的会談を開催。聖櫃のロシア歴訪は、両者の間で決められた。

  カトリック・ロシア正教・プロテスタントを含む全世界のキリスト教徒の間で、聖ニコラほどその名を知られている聖人はいない。例えば、サンタ・クロースの名前もこの聖人のオランダ語読みから出ているといわれる。

  小アジアのギリシャ人の町ミュラ(現在のトルコ)の裕福な家庭出身の司教。慈悲の心と高徳、船乗りを守る奇跡は、中近東からヨーロッパまで有名であった。1087年、この聖人の町がイスラム教徒に占領されそうになったとき、バーリの船乗り67人が遠征して聖人の遺骨を持ち帰り、町の大聖堂に安置したとされる。

  2007年に開催されたバーリでの伊露通商会談中、ロシアのプーチン大統領は非公式にこの聖人の礼拝に訪れたという。

坂本鉄男

(2017年5月28日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 来月G7開催「タオルミーナ」の魅力

来たる5月26日と27日の両日、先進7カ国サミットがイタリア南部シチリア島の国際的観光地タオルミーナで開催される。

昨年、レンツィ前伊首相がシチリアのこの地を選定した理由は、イタリア政府観光局が宣伝ポスターに使ったほどの景勝地であるほか、地中海を渡りシチリアに押し寄せる難民問題にも利用できるためだ。

また、海からほぼ垂直に200メートルの山上に広がる小さな町であるため警備がしやすいことも理由の1つにある。それだけに交通の便の悪さと、限られた数の宿泊施設には各国代表団および報道関係者は頭を悩めるに違いない。

タオルミーナは紀元前約350年に古代ギリシャ植民地に、次いで古代ローマの植民地になった。町の外れの崖の上には、有名な古代ギリシャ劇場跡が残っている。ここからは、足下に紺碧(こんぺき)の地中海と遠くには2000年以上前から噴煙を上げ続けるヨーロッパ唯一の活火山エトナ山を望むことができる。

現在でもこの劇場跡では、夏季の演劇祭や映画祭が行われ、多数の観光客を集めている。

私にとっても、昔、メッシナ市のロータリークラブとローマ日本大使館の要請でこの町で一番有名なホテルで「日本経済発展の秘密」の題で講演したこともある思い出深い土地でもある。

坂本鉄男

(2017年5月21日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 同性婚の認可1年 蓋を開けてみれば…

イタリア下院が昨年5月11日、長年にわたって激論してきた同性婚の認可に踏み切ってから1年が経過した。

イタリアの有力紙が最近、役所にこの1年に届けられた同性婚の大体の総数を発表したが、あれだけ同性婚の公認を訴えた人が多かった割には実際の同性婚数はそれほど多くなかった。

法案が通過してから昨年12月末までが2430組、今年3月までの3カ月間は370組で、総数は2800組。イタリア全体では、考え方が進歩的といわれる北部と中部が合計2500組で、保守的な南部では300組にすぎなかった。

結婚とは男女が結ばれて家族を作るためのもの」として、同性婚には絶対反対だったカトリック教がかつて国教として圧倒的な力を持ってきたイタリア。その反動も小さくないはずだが、蓋を開けてみれば他の国々と同じであることが判明した。

つまり、最近のイタリア人男女も「正式な結婚より同棲(どうせい)」を選ぶものが多く、「束縛を受ける結婚より自由な独身」と考える世代が激増しているだけに、同性同棲者も無理に形式的な結婚を考えなくなっているわけだ。

いずれ日本でも同性婚を正式に認めざるを得ない時代が来ると思われるが、さて、どうなるか。

坂本鉄男

(2017年5月14日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 入れ墨は市民のおしゃれ? ローマ市だけで工房900軒

イタリアでは、タトゥー(入れ墨)は「怖いお兄さん」たちだけがするものと思う時代は過ぎ去り、一般市民のおしゃれの一種になってきた。プロサッカー・セリエAの試合を見ていても、ひじょうに多くの選手が腕に大きな入れ墨をしているし、テレビのクイズ番組に出場する奇麗な娘さんの中にも、肩や腕に小さな入れ墨をしているのを見かけることが多くなった。

最近の地元紙の報道によると、ローマ市だけで実に900軒の入れ墨工房があり、世界の大都市の中でも人口の割合に比べこれほど入れ墨工房が多い都市は少ないらしい。

有名サッカー選手を顧客にしているような彫師になると、半年から1年先まで予約がいっぱい。2~3時間で彫り終わる小さな入れ墨でも代金は200ユーロ(約2万4千円)以上はするという。

また、有名な入れ墨工房では、彫ったことを後悔する顧客のために除去手術の専門家も紹介するというが、レーザーによる施術料はかなり高いようだ。

なにしろ、民間テレビで外国の入れ墨師コンクールを絶えず流しているのだから、今後も入れ墨ブームは盛んになるばかりだろう。

新聞によると物価統計に、彫り物代が入るかもしれないというから驚きである。

坂本鉄男

(2017年5月7日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り メーデーに食べるもの

「イタリアは労働に基づく民主的共和国である」

共和国憲法第1条がこう明記しているだけに、5月1日のメーデーは国民の祝日となっている。

ちょうど気候が温暖になってくる頃なので、ピクニックにも最適な祝日だ。ローマでこの日に欠かせない食べ物は「生のソラ豆と羊のチーズ」だ。

まだ初物のソラ豆は、大きくなっていないものをサヤからむき出して生で食べる。塩ゆでなどで食べることが多い日本人にとって、最初はやや青臭い感じがするが、慣れると甘みがあってうまい。

ソラ豆は新石器時代から地中海沿岸で栽培されていたといわれる。古代ギリシャ時代には消化に悪く、悪夢を見るものとして嫌われたが、後に精力増進によいとされ、花と春と豊穣(ほうじょう)をつかさどる女神、フローラにささげられたとされる。

これと一緒に食べるのは羊の乳で作る塩味のやや強いペコリーノチーズだ。高い栄養価と消化の良さ、長期の保存性から、遊牧民族だった古代ローマ人とは切り離すことができない食物だった。

メーデーの祝日に、家族と一緒に野外で生のソラ豆とペコリーノチーズを食べ、赤ワインを飲みながらバーベキューを楽しむローマ市民を見ると、夏の近さを感じる。

坂本鉄男

(2017年4月30日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)

坂本鉄男 イタリア便り 今年はローマ暦で2770年 皇紀で2677年って知ってました?

 伝説によると、ローマは紀元前753年4月21日、ギリシャ神話の英雄アイネアスの子孫で牝狼に育てられた双子の兄弟、ロムルスとレムスによって最初の町の輪郭がしるされたとされる。だが兄弟の主導権争いで、レムスが殺され、ロムルスが、その後7代続く王制ローマの初代の王となり、その名がローマのもとになったといわれている。

 もっとも、この年月日の「決定」は簡単でなかった。初代皇帝アウグス帝時代の多くの歴史家などが神話や伝説を調べ、最後は天文学者が月日を割り出した。この説に従うと今年の4月21日はローマ暦で2770年になるわけだ。

 日本にも昔は初代天皇の神武天皇の即位の年、紀元前660年2月11日から数える皇紀という年号があった。日本の歴史がいかに長いかを内外に喧伝(けんでん)する方法に使われ、「建国記念の日」の2月11日は、かつては紀元節と呼ばれた祝日であった。

 この皇紀によると2017年の今年は、皇紀2677年に当たる。

 第二次大戦終了までの日本の学生たちは、歴史を習うのに西暦年号、日本の皇紀、元号(現在の平成)を覚えるという複雑な努力をしたものだった。だが、たとえ伝説にせよ、こうした年代の数え方が存在するのを知るのも一興であろう。

坂本鉄男

(2017年4月16日『産経新聞』外信コラム「イタリア便り」より、許可を得て転載)